少年/少女マンガ的でもなくウェブトゥーン定番要素もないが、ラブコメ的におもしろい『恋愛革命』

マンガ

公開日:2022/1/20

恋愛革命
『恋愛革命』(232)
©232/LINE Digital Frontier

 日本で人気のウェブトゥーン(韓国発の、縦スクロールで読むウェブコミック。フルカラーが特徴)といえば、ファンタジーで「死に戻り」をするか、異世界転生して活躍するか、現代ものならやはり死に戻りなどをした最強の主人公が闘う話や、いじめられっ子が復讐する話が多い。お金やルックス、頭の良さや身体能力に圧倒的な格差がある世界のなかで、底辺にいた存在が逆転する物語だ。

 こういうものが、一昔前の韓国ドラマにおける「貧乏人と金持ちの恋愛」「子どもの取り違え/入れ替わり(出生の秘密)」「記憶喪失」と同じくらいパターン化されて、無数に存在する。

 ただ、そうではない現代ものにも、おもしろい作品はある。

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 2021年にBS日テレで放送、AbemaTVで配信されたドラマ『恋愛革命』が、Netflixでも視聴可能になったが、このドラマの原作は韓国のウェブトゥーンで、日本ではLINEマンガで読むことができる。

 高校生のジュヨン(LINEマンガでは「姫ノ宮レイ」)が、一目惚れしたジャリム(LINEマンガでは「王子リン」)に猛アタックし、9割方つれない反応をされながらも、徐々に距離を縮めて付き合うことになる、というラブコメだ。

 この作品には、格差社会や受験戦争、あるいはいじめ・復讐のようなウェブトゥーンの定番要素はほとんど出てこない。胸クソ悪いいじめっ子や金持ちも、最強のイケメンも出てこない。

 必死で勉強するのでもなければバトルするわけでもなく、放課後はカラオケやネットカフェ(PCバン)に集まって遊ぶ平凡な少年少女たちの、輝かしくはないが笑いに満ちた学校生活と恋愛を、おもしろおかしく描いていく。

 ジュヨンは突然ギターを弾きながらジャリムへの自作ラブソングを歌ったり、「マンションが火事になっている」と(ウソを)言って呼び出し、薔薇の花束を渡して「付き合って」と告白したりして、ジャリムの怒りを買ったり塩対応されたりするが、まったくめげずに一途にジャリムを追い続ける。

 その描き方は少年マンガっぽくはないし、かといって少女マンガらしくもない。

 たとえば、ジュヨンは太ってもいないが筋肉質でもなく、マンガではジュヨンの若干たるんだ腹を見たジャリムが「別れて」と冷たく言い放つ(ジャリムはそういうキャラなのだが)シーンがある。少女マンガのラブコメなら、普通こんな描写はしない。

 強いて言えばボンクラたちを主人公にした青年誌のラブコメに近い(懐かしいところでいえば、あだち充の『みゆき』とか……)。

 絵柄もシンプルで、ギャグのシーンでキャラの表情が劇画調になったり、『名探偵コナン』や『遊戯王』のパロディが入ったりする。

 ゴリゴリの画力と塗りで美男美女を描く『女神降臨』のような、女性向けの恋愛ものウェブトゥーンとはまるで違うし、たとえば日本の少女マンガ誌においては、この画風・画力・塗りだと、そもそも企画自体が通らないかもしれない。

 しかし、これが韓国発のウェブトゥーンなら許容されるし、人気が出てドラマ化され、全世界に配信される。

 もちろん、日本のマンガも非常に多様だ。ただ日本発でこういうタイプの作品で人気が出て、はたして映像化されるだろうかと考えると、ちょっとわからない。

 韓国ならではのマンガ界と映像業界(とその受け手)の特徴と多様性、懐の深さ(?)を個人的には感じる。

 話が進むにつれてコミカルさが薄れてシリアスになり、なごやかにバカなことをやってたと思っていた友人関係に亀裂が入って、ギスギスした展開をするようになるのが個人的には残念(アホに突っ走る前半のほうが好き)だが、ともあれ、ウェブトゥーンにステレオタイプなイメージを持っている人にこそ、この『恋愛革命』を読んでみてもらいたい。

文=飯田一史

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