正体がばれたら極刑必至――追放されたはずの後宮に戻された元妃のリターンマッチから目が離せない!

文芸・カルチャー

公開日:2022/1/25

白豚妃再来伝 後宮も二度目なら
『白豚妃再来伝 後宮も二度目なら』(中村颯希/KADOKAWA)

 身に覚えのない罪によって後宮を追われた中級妃、珠麗。しかし、なんの因果か女官狩りにさらわれて再び後宮に舞い戻ってしまう。今は「珠珠」と名乗って生きている珠麗だが、もしも正体がばれたら極刑は必至! なんとかして脱出しようとするものの――。

 デビュー作『無欲の聖女』(主婦の友社)をはじめ、『神様の定食屋』(双葉社)、『シャバの「普通」は難しい』(KADOKAWA)、『ふつつかな悪女ではございますが』(一迅社)など数々の人気シリーズをもつ中村颯希さん。魅力的なキャラクター造型、痛快なストーリー展開、テンポのいい会話に、ふんだんに盛り込まれた笑い。そんな持ち味が存分に注ぎ込まれた新作小説が『白豚妃再来伝 後宮も二度目なら』(KADOKAWA)だ。

 タイトルにある「白豚妃」という文字がなんともインパクトがあるが、これは主人公・珠麗のこと。豊かに波打つ黒髪、珠のように白い肌、善良でやさしい性格の珠麗は、後宮においてそれらの美点をはるかに凌ぐNGポイントがあった。非常な肥満体型だったのだ。

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 皇帝の寵をめぐって多くの美妃が女の闘いを繰り広げる後宮で、珠麗は並外れて太っているがため競争相手とみなされず、闘争に巻き込まれずにすんでいた……はずだった。皇帝の子を懐妊中の妃、楼蘭に毒を盛って流産させたという嫌疑をかけられるまでは。

 斬首刑になるところを、かろうじて後宮からの追放という処分となった珠麗。行き場のない彼女が身を寄せたのは花街だった。それだけではすまず、その2年後には失火が原因で妓楼が焼け落ち、貧民窟にまで追いやられることになる。

 皇帝の妃からトイレの清掃人、そして衣食住さえままならない貧民窟住まいに――普通の女性なら、これほど耐え難い恥辱はない。しかし珠麗は“普通”ではなかった。底抜けにお人好しで、なによりもめげない性格だったのだ。

 苦労は人を成長させる。加えて骨身を惜しまず働くうちに脂肪が落ちて、珠麗は自分でも気づかないうちに美しくなっていた。そこを、後宮からやってきた女官狩りに目をつけられ、さらわれてしまう。

 間もなく皇帝の代替わりに伴い、後宮内の妃や女官を新たに選び直す儀式が行われる。美しさはもちろん、知性や教養も試される試験だ。それらの試験で珠麗は不合格になろうとするものの、思いとは裏腹にとんとん拍子に高評価を得て、ついには新皇帝の妃候補にまでなってしまう。

 このあたりの“2度目の人生チャレンジ(?)”展開は実に痛快で、“転生もの”にも通じる楽しさ、おもしろさに充ちている。

 お人好しな性格はそのままに、タフな美女へと生まれ変わった珠麗。そんな彼女を見守る2人のヒーローも魅力的だ。

 貧民窟で珠麗と行動を共にしていた礼央。後宮時代になにかと珠麗を気にかけてくれていた郭武官。彼らはどちらも珠麗の美しさに惹かれたわけではない。「あいつは強い」と珠麗を評する礼央は、彼女の心根に惚れ込んでいて、一方の郭武官は見目麗しい珠麗の振る舞いのなかに、心あたたかな白豚妃の面影を見出す。

 選抜試験がいよいよ佳境へ向かうところで、第1巻は終了。今月発売された第2巻で続きが読める。珠麗に並々ならない敵意を燃やす楼蘭との対決、礼央と郭武官とのほんのりとした三角関係。そして2度目の後宮生活で、珠麗は今度こそ花開くことができるのか? 読みどころが満載の後宮小説だ。

文=皆川ちか

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