宇宙と温泉? 宇宙のゴミ掃除? すでに始まっている日本の宇宙ビジネス最前線!!

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/26

超速でわかる! 宇宙ビジネス
『超速でわかる! 宇宙ビジネス』(片山俊大/すばる舎)

「宇宙ビジネス」と聞いてまっさきに思いつくのは、やはり宇宙旅行だろう。2021年12月には、衣料品大手ZOZOの創業者、前澤友作氏が国際宇宙ステーション(ISS)に“宿泊”して話題になった。しかも、フードデリバリーのUber Eatsの協力を得た前澤氏は自ら特別配達パートナーとして、ISSに滞在している宇宙飛行士たちにサバの味噌煮缶などを“配達”した。これまでは宇宙旅行と云っても、行って帰ってくるだけの日帰り旅行だったのが、宿泊ができるという本格的な旅行事業となることを示し、宅配事業までも具現化してみせたのだ。

 宇宙旅行なんて庶民には費用面で手に届きそうにないが、妙にテンションが上がってしまい『超速でわかる! 宇宙ビジネス』(片山俊大/すばる舎)を手にした。株式会社電通に勤務する著者は、日本がアジアにおける宇宙旅行ビジネスのハブとなることを目指す一般社団法人Space Port Japanの創業に携わり、理事も務めている。専門分野は「広告・PR領域全般」というから、いわば本書は宇宙ビジネスに馴染みのない一般の人に向けたプレゼンテーションということになるだろう。

エンタメにも門戸開放!? 「宇宙ステーション」

 本書では、まだ民間人として「前澤氏が出発予定」と記されているが、その後実際にISSに滞在。ISSは地球を90分で周回している施設で、日本を含めた15ヶ国が協力し合い、1998~2011年にかけて建設された。かつての宇宙開発が米ソの国家間対立に基づく競争であったことからすれば、ISSは平和の象徴といえるものの、宇宙開発がさかんな中国は独自路線を歩み参加していない。そのISSでは人工衛星の軌道投入をはじめとして、無重力の特性を活かした新薬や新素材の開発などが行われているのだが、参加各国による2024年以降の予算と運用については未定。本書によれば、民間ビジネスに転用されるそうで、「映画の撮影や宇宙ホテルとしての利用」が商業利用として考えられるという。CGや特撮ではない本物の無重力を活かした映像作品が、どのようなものになるのか愉しみである。

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“温泉×宇宙”の国際都市を目指す!? 「スペースポートシティ@大分」

 実は日本は世界的にも、東と南に公海が開けていて宇宙港に最適な地理条件なのだとか。というのも宇宙に行くのには、ロケットを打ち上げる方法の他に、滑走路から水平に離陸する方法があり、後者は長い滑走路さえあれば既存の空港を使用することができる。というわけですでに大分空港に、小型衛星を宇宙に送り届ける会社であるヴァージンオービットの就航が決まっており、準備が進められているそうだ。宇宙旅行となると、事前の体調管理や帰還後のリハビリなどで宇宙港周辺の施設に滞在することが考えられるから、別府温泉のある大分なら、将来的には本書で述べられているように「温泉旅行と宇宙旅行のミックス」というプランも提供できるかもしれない。

 同様のリゾートと宇宙港の組み合わせとしては、沖縄県の下地島空港でも宇宙旅行エアラインとPDエアロスペース社が、「サブオービタル宇宙旅行」に使用する計画がある。この旅行プランは、冒頭に書いたように行って帰ってくるだけなので、本書では「“旅行”というよりも“アトラクション”に近い感覚かもしれません」としつつ、エメラルドグリーンに輝く海上滑走路の空港であることから、立体的な旅行体験の提供が考えられるという。

日本の企業がリード! 「宇宙ゴミ除去」

 環境問題は地球上において喫緊の課題だが、宇宙でもロケットの残骸や運用停止した人工衛星など「スペースデブリ」と呼ばれる宇宙ゴミが2万個以上も地球の軌道上を周回していて、運用中の衛星はもちろんISSに衝突する危険性が高まっている。そんな宇宙の環境問題に、いち早く取り組んでいるのが日本の会社であるアストロスケール。故障したり耐用年数の過ぎたりした人工衛星などに、デブリ除去衛星を近づけて捕獲し、大気圏へ突入させることにより燃え尽きさせるそうだ。宇宙のデブリ除去という市場が存在しなかったところへ事業を立ち上げ、市場を作り出すのがベンチャー企業だとすれば、他にも紹介されている、「専用の衛星を使って、人工の流れ星をつくる」事業に取り組む日本の会社など、宇宙ビジネスで独自のポジションを取るのではないかと期待が膨らむ。

 本書には前澤氏が次の宇宙プランとして、スペースX社が計画している月周回旅行の定員となる9人分全席を購入し、参加する乗員を全世界から募集したことが載っている。「dear Moon」と名づけられたこのプロジェクトには、「全世界249の国と地域から約100万人の応募がきています」(2021年7月)とのことで、アーティストやスポーツ選手なども含まれているそうだ。どのような人たちが選ばれるかは分からないが、宇宙で作られた芸術作品や宇宙でのダンスの振付けといった、宇宙アートが見られる可能性もある。それこそ、アイデア次第では出資者が現れて宇宙ビジネスに関わることになるかもしれないとなれば、夢も広がろうというもの。私も、思いついたときのためにプレゼンテーションの練習でもしておこう。

文=清水銀嶺

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