家族のことを思わずにはいられない! 心温まる”実話が詰まった昭和ノスタルジック”コミックエッセイ『ひぐらし日記』

マンガ

更新日:2022/3/2

ひぐらし日記
『ひぐらし日記』(日暮えむ/KADOKAWA)

 どんなに大切な人でも、もっと一緒にいたいと思っても、人はいつか必ず死んでしまう。分かり切っていることだが、それでもいつも一緒にいた相手が二度と会えない人になってしまうというのは耐えがたいことだ。しかし、それでも思い出として心に残り続け、支えになっていく――。『ひぐらし日記』(日暮えむ/KADOKAWA)は、そんな残酷さと切なさ、人の温かさと強さを描いたノスタルジックコミックエッセイ。

 cakesにて連載中の本作は、著者である日暮えむさん自身が主人公の実話で、小学3年生から書き続けているという日記をもとに綴られている。幻冬舎×テレビ東京×note「#コミックエッセイ大賞」で審査員特別賞を受賞し、成田市長や『あたしンち』(けらえいこ/KADOKAWA)で有名な漫画家・けらえいこさんなど名だたる著名人が絶賛している超注目作だ。

 えむさんが生まれたのは、千葉県北部にある成田市の利根川沿いの村。えむさんの家庭では父親は宮大工をし、母親は農業に従事し、祖父は牛を飼い、祖母は自転車で5分ほどの漬物屋に勤めていた。それゆえに7人分の家事と子育ては曾祖母である「としょさん」が担当していたという。ちなみに「としょさん」というのは名前ではなく、この地方の訛り「年寄り」=「としょり」からきた「曾祖母」という意味の方言である。

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ひぐらし日記

 えむさんと弟の「よしろー」は、幼い頃からずっととしょさんを頼って生きてきた。としょさんはおなかがすいたと言えばおにぎりを作ってくれて、幼稚園に行く際のバス停までの送り迎えをしてくれて、小学生~高校生まで、帰宅時間前に家の前の角「けいど」で待っていてくれた。

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 また、えむさんがどんな我儘を言っても笑顔で受け止めてくれたという。心配性で信心深いとしょさんの行動は幼かったえむさんにとって時に面倒なこともあったが、実はその行動も、としょさんの悲しい思い出と深い愛情からくるものだった。

 いつも明るいとしょさんだが、実は結婚前に両親を亡くし、今の家に嫁ぐ際は一緒だった弟も途中で亡くし、更には自分の子どもたちも失っている。それでも片道5時間の道のりを歩いて野菜を売りに行き、夏以外の3シーズン毎日何十年も「瓜の鉄砲漬け」の中に入れるしそ巻き作りの内職を続けるなどひたむきに頑張ってきた。そのうえで、苦労も笑い話としてえむさんに話している。

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 また、実はオシャレ好きで、ここぞという時はお気に入りの服を着るなど可愛らしい一面も持っている。こうしたとしょさんの生き様を見ていると、昔の人が持つ強さをひしひしと感じ、改めて感心してしまう。野菜を売るために毎日往復10時間歩くなんて、想像を絶する過酷さだ。

 だが、大変ながらもずっと元気に暮らしてきたとしょさんも、ついに病魔に侵されてしまう。体調を崩して病院に行ったところ、子宮がんだと宣告されてしまうのだ。そしてとしょさんが89歳のある日、ついに別れの日がやってくる。

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 としょさんの死について、本書ではえむさんの心境や心の動きだけでなく、この地に伝わる葬儀の流れや当時の家族、親族の様子なども鮮明に描かれている。その儀式の様子、悲しいだけでは終われない慌ただしさ、進んでいく時間がとてもリアルで、涙なしには見られない。

 筆者は今まで、ずっと一緒に暮らしていた人を亡くすという経験をしたことがない。これが起こった際、果たして自分は立ち直れるのだろうか。考えるだけで泣いてしまいそうになる。自分が先に死なない限り誰もが必ず経験する身内の死。ここに至るまでの思い出をここまで丁寧に、相手への思い溢れる描き方をしている作品を筆者は知らない。多くの著名人がおすすめしているという事実にも頷ける。

 温かさを感じる柔らかい画風で描かれる、実際昭和にあった家庭の形、家族の形を描いた『ひぐらし日記』。これを読むと、きっと身近にいる大事な人たちのことがたまらなく愛しく思えてくる。今できることはしておこう、と思えてくる。筆者も、そうした「誰かを思う気持ち」を大切に生きていきたい。

文=月乃雫

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