天童荒太、伝説の物語が16年を経て再始動! あの「包帯クラブ」のメンバーたちは今どこに?

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/14

包帯クラブ ルック・アット・ミー! The Bandage Club Look At Me !
『包帯クラブ ルック・アット・ミー! The Bandage Club Look At Me !』(天童荒太/筑摩書房)

“だれにもあることだからって、ひとまとめにしちまうのは、相手の心を思いやるのを、おっくうがったり、面倒がったりする、精神の怠慢からくるんじゃねぇの”。

 コロナ禍になって以来、幾度、この言葉が脳裏を過っていっただろう。戦わないかたちで自分自身の大切なものを守りたい、そんな思いから結成された「包帯クラブ」のリーダー、ディノの放ったその言葉が。

“わたしは何度そうして、ほかの子に傷を、なんでもないもののように扱っただろう……わたし自身、そうした扱いを受け、どうせ他人にはわかってもらえないんだって、何度思ったことだろう”

というワラの言葉も。

 30万部のベストセラーとなり、柳楽優弥、石原さとみ主演で映画化もされた前作から16年、「包帯クラブ」のメンバー=ディノ、ワラ、タンシオ、ギモ、テンポ、リスキが、再び私たちのもとに帰ってきた。“自己責任”という言葉が猛威を振るう今の世に光を届けるかのように。どんなにささやかな痛みも“傷”だと認めていい、そしてそれは自分ひとりで背負わなくてもいいんだよ、と伝えるために。

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 見ず知らずの相談者が「傷」を受けた場所に赴き、包帯を巻く。その写真を撮り、傷ついた人に送る「包帯クラブ」。そこで活動する6人もまた、それぞれに傷を持つ少年少女たちだった。

 パワハラを受けて職場に行けなくなったり、神社でいたずらをされ、ひとりで家から出ることができなくなったり――誰かが傷ついたその場所に、次々と包帯を巻いていった彼らだったが、無理解や反発を受け、活動自粛を余儀なくされてしまい――。『包帯クラブ ルック・アット・ミー! The Bandage Club Look At Me !』(天童荒太/筑摩書房)は、そんな前作の終わりから物語が始まっていく。ひっそり会うなかで彼らが始めたのはバンド活動。発表の場を求めながら、別のかたちで「包帯クラブ」の実現を試みるメンバーは、新たな仲間、そしてその人たちそれぞれが持つ「傷」とも出会っていく。

 本作での語り手は、

“何も知らない子ども、として扱われていた頃から、日々、この社会の不公平さと理不尽さにぶつかってきた”

と語る引っ込み思案のギモ。穏やかでフラットな彼の視点は、メンバーの表情や胸の底にあるもの、さらに進路を考えなければならない時期に差し掛かった彼らの想いをこまやかに掬いとっていく。

 前作『包帯クラブ』のなかでは未来のメンバーたちからの【報告】というかたちで、彼らが進んだ先のことが綴られていた。まるでパズルのかけらのようなその【報告】が、本作ではひとつの線としてつながり、高校3年生の現在を語るストーリーと、成人した現在が交差して語られていく。多くの読者がずっと気になっていたであろう【リスキ報告】のなかにあった“ディノについての悪い知らせ”のことも。

『包帯クラブ』が刊行した2006年当時から、著者の頭の中には、そこで描いた世界の何倍もの広さと厚みのある「包帯クラブ」の構想図があったという。本作で語られるのは、その一部であり、関東のはずれの町で暮らしていた子どもたちが、それぞれの領域を広げていった先で世界とつながっている様子が描かれる。「包帯クラブ」も「バンデイジ・クラブ」と呼ばれ、活動の幅が広がっている。

 成人したメンバーがどこで何をしているのかは、ぜひ自身で確かめてほしいが、成長したメンバーたちからは、誰かのために自分の力で何かができるようになった大人の姿が見えてくる。

“メンバーと同じ、高校生のときに、この本を読みたかった”という大人たちからの声を『包帯クラブ』刊行の際にはよく耳にした。本作はそんな大人たちも、そしてもちろん10代の人たちも“リアル世代”として向き合うことができる。タイトルに付けられた“ルック・アット・ミー!”が示す想いを探りながら、物語の世界を楽しんでほしい。

文=河村道子

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