シュールって何? 『ちくちくぴろんぴろん』って何? 『世にも奇妙な物語』原作を含む、164個&描き下ろしの笑いが詰まった多彩な作品集

マンガ

公開日:2022/3/15

ちくちくぴろんぴろん
『ちくちくぴろんぴろん』(せきの/KADOKAWA)

 SNSを中心に「シュールな笑い」と人気を集めるギャグ漫画家せきの氏が、5年ぶりに作品集『ちくちくぴろんぴろん』(KADOKAWA)を発表した。2015年から2021年までにネット上で発表してきた作品の中から164本を厳選し、さらに描き下ろし作品も収録された1冊だ。

 シュールと言ってしまえば簡単だが、僕が考えるせきの氏の魅力は「多様性」にある。1人の人気キャラを押しまくるわけではなく、ひと作品ごとに違ったタイプの笑いを作っているのだ。モノによってはツッコミがなかったり、タイトルをフリに4コマ全てでボケていたり、はたまた3コマ目で落として4コマ目でダメ押しをするモノ、もちろん4コマ目でオチがつくオーソドックスなモノもある。

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「女子力」

ちくちくぴろんぴろん

『世にも奇妙な物語 ’17秋の特別編』(フジテレビ系)で、フリーアナウンサー・加藤綾子が出演した短編ドラマの原作となったのがこの「女子力」だ。

 断崖絶壁で今にも落ちそうな女性とそれを引き上げようとする女性のシーン。緊張感ある設定のはずが、「これはさすがに落ちる~」と1コマ目からいかにも今どき女子の言葉で違和感が作られる。そこから「パンプスでロッククライミング」「離しちゃダメ。頂上でインスタ撮る約束でしょ」「ネイル変えた?」と緊張感のないセリフがエスカレートしていく。

「デート」

ちくちくぴろんぴろん

「デート」シリーズは、読者任せの笑いだ。初デートでスーツ姿しか知らない先輩男性の私服を楽しみにする女子。待ち合わせに現れた先輩の格好は、森山直太朗が『さくら(独唱)』のミュージックビデオで着ていた服装とウリ二つだった。森山直太朗と似た格好だからって問題は何もないし、本来なら笑いになんてならない。しかし、あえてギャグ漫画のオチに使うことで読者は「別にいいだろ!」というツッコミをせざるを得ない。また、「なんとなくあの服ってみんな覚えてるよね?」という作者のメッセージが含まれてる感じも良い具合に腹が立つ。

「デート」はせきの氏の中でも人気シリーズで、『ちくちくぴろんぴろん』には裏表紙に隠されたデート⑥までが掲載されている。どの先輩も絶妙に記憶に残っていたり、まったく覚えていないファッションをしていて、次の先輩が現れるのをなぜか心待ちにしてしまう。

「遭難」

ちくちくぴろんぴろん

「遭難」は3コマ目で予想外の展開を見せて、4コマ目でさらに裏切ってくる。砂漠で遭難してしまった男が、やっとの思いで人を見つけた。しかし、近づいた先に待っていた男は、なぜか砂漠で恵方巻きを食べている。遭難男は不思議な恵方巻き男の存在をあっさりと飲み込み、「今年は南南東だから街はこっちだな!」と意気揚々と走り出す。遭難男もこのイカれた世界の住人だったのだ。

「声のボリュームがおかしいバーテンダー」

ちくちくぴろんぴろん

 タイトルが全てでオチがない4コマもある。設定は、バーテンダーに協力してもらい男性がナンパする「あちらのお客様からです」というあるあるだ。目の前にカクテルが置かれた女性が視線を上げると、男性の姿が。ここから恋が始まって…というのが規定路線なのだが、バーテンダーが「あちらのお客様からです!!」と声を張り上げてしまうことで雰囲気はぶち壊しになってしまう。タイトルから4コマ目はわかりきっているのに、堂々とした態度とアホ面がわずかに予想をこえて笑いが生まれている。

 このように一つ一つ見れば、シュールと言われるほど意味のわからない作品は意外と少ない。おそらく解釈の違う笑いをちりばめることで、せきの氏独特の空気感が生まれ、「シュール」と呼ばれているのだろう。一番意味がわからないのはやっぱりタイトルの『ちくちくぴろんぴろん』。はじめっからふざけきっている。

文=さわだ

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