もしも『ポプテピピック』の大川ぶくぶ氏が、女性漫画誌でエッセイを描いたら──?

マンガ

公開日:2022/4/2

大川ぶくぶのお日記させていただく
大川ぶくぶのお日記させていただく。1』(大川ぶくぶ/祥伝社)

 2018年にアニメ放映された『ポプテピピック』はチャレンジ精神旺盛な作りで話題を呼び、そのシュールすぎる作風から原作者である大川ぶくぶ氏にも大いに注目が集まった。そんな氏が、ヤングな女性誌で連載を持っているということをご存じだろうか? 『大川ぶくぶのお日記させていただく。1』(大川ぶくぶ/祥伝社)は女性向け漫画雑誌『FEEL YOUNG』(以下『フィーヤン』)で連載中の、大川氏によるエッセイ漫画なのである。

『フィーヤン』といえば、安野モヨ子氏やおかざき真里氏ら豪華メンバーが顔を揃える、バリバリの女性漫画雑誌。そんな中に、キャラクターが出版社の社屋を破壊してしまうような作品を描く大川氏が参画しようというのである。では本作は一体どんなエッセイ漫画なのか? 担当編集である、可愛らしいポメラニアンに描かれた「ポメ」氏によれば「ぶくぶ先生のフィール・ヤング感を徹底的に鍛え上げる」ために、さまざまな体験をしてそれをレポートするというものだ。

 つまりこれは大川氏がオシャレ体験をして、『フィーヤン』にふさわしい漫画家に成長していく日記なのである。なので取材先も流行のグランピング施設やワックスアート教室、ピアス作り体験など、まさに「フィール・ヤング感」満載の内容。大川氏はその雰囲気に打ちのめされたり、なけなしの体力を持っていかれたりしながらも、なんとかポメ氏の用意したイベントをクリアしていくのであった。

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 とはいえ、大川氏もただ言われるがままに取材をこなしていたわけではない。実はたびたび、自分の嗜好によるイベント取材もねじ込んでいるのだ。たとえば子供たちが中心のイベント「次世代ワールドホビーフェア」や、お台場にあるガンプラ(『ガンダム』という作品のプラモデル)の聖地「ガンダムベース東京」などである。ここでは主導権は完全に大川氏にあり、ポメ氏は「はじめしゃちょー」を知らなかったり、ガンプラ作りに初挑戦するなど立場が完全に逆転している感じが面白い。

 しかし凸凹コンビによる取材活動が順調に見えるのも束の間。実はこの連載は2018年の9月号から始まっているのだが、ご存じの通り2020年初頭あたりから新型コロナウイルスが日本でも流行しはじめ、感染予防の観点から多くのイベントが中止に。外出自粛ムードの中、取材に出かけることもできなくなり、結果としてこのエッセイは完全に大川氏の「お日記」状態になってゆく。氏が日がな一日「エーペックスレジェンズ」というオンラインゲームをプレイしたり、バーチャルユーチューバーの配信チェックをしたりする生態を晒しつつ、それでもオンラインサファリに参加したりとコロナ禍なりの活動を綴るのだ。そういう意味では、本作は「コロナ禍での行動の変化」をリアルに描いているともいえる。

 結論からいえば、このエッセイは女性誌読者だけを意識して描かれているわけでは決してなく、30過ぎの漫画家とその担当編集による掛け合い漫才的なエッセイである。そういう女性誌的でない部分も魅力的だ。現在でもコロナ禍は収まっておらず、取材ベースのエッセイは苦戦を余儀なくされるのだろうが、それでも許された状況の中で、ゆるい「お日記」は綴られていくのであろう。

文=木谷誠

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