「一万円選書」で注目! 北海道の小さな町の本屋さんが教えてくれる、これからの書店の姿

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公開日:2022/4/2

「一万円選書」でつながる架け橋
『「一万円選書」でつながる架け橋 北海道の小さな町の本屋・いわた書店』(岩田徹/竹書房)

 街に古くからある小さな本屋が次々と閉店を余儀なくされている。もう本屋は時代遅れなのか。いや、そんなことはない。小さな本屋だからできることが必ずあるに違いない。

 たとえば、北海道の本屋・いわた書店がおこなう「一万円選書」は、本が好きな人はもちろんのこと、普段本を読まない人からも多くの注目を集める選書サービスだ。店主・岩田徹さんによる『「一万円選書」でつながる架け橋 北海道の小さな町の本屋・いわた書店』(岩田徹/竹書房)は、「一万円選書」誕生秘話やその裏話、書店の生き残りをかけた日々について描かれた一冊。この本を読むと、街の本屋にはたくさんの可能性が秘められているように思えてくる。

「一万円選書」とは、その名の通り、店主の岩田さんが一万円分の本を選んでお客さんに送るというサービスだ。2007年にスタートしたというこの取り組みは、7年もの時を経て、2014年に大ヒット。2021年までの受付総数は累計1万1470人というからその人気の高さに驚かされる。右から左へ機械的に一万円分の書籍を送ってしまうこともできるだろうが、岩田さんは決してそんなことはしない。客の人柄や考え方、読書歴を探る「選書カルテ」への詳細な回答をもととして、岩田さんは一人ひとりに合った本を丁寧に選書していく。客が喜ぶ本を選ぼうというその情熱には誰もが圧倒されることだろう。

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 岩田さんは、オススメしたいと思う本のためなら、絶版になりそうな本を必死で救ったり、すでに発売されていない本の復刻版の刊行を出版社に掛け合ったりする。どうしてそこまでするのかといえば、「本の面白さを伝えるのが書店員の役目」という思いがあるためのようだ。岩田さんの算定によれば、本好きは世の中の2%ほどで、残りの98%はほとんど本を読まない。本屋の腕の見せどころは、98%に向けて本の面白さを伝えられるかどうか。「一万円選書」に限らず、岩田さんは売れそうな本ではなく、売りたい本、読んでほしい本を店頭に置くよう心がけているのだそうだ。

 確かに一般的な本屋でも、ネット書店でも、私たちの目を引くのは「今売れている本」ばかりだ。隠れた名作と出会う機会はほとんどなく、元々本が好きでなければ、どんな本から読み始めていいのかも分からないだろう。新しい本との出会いを提供するのは、今の時代の本屋に求められていることに違いない。岩田さんは自身の「一万円選書」ノウハウを惜しげもなく公開し、「書店経営で困っている人は騙されたと思ってやってみては」とさえ言う。これからは本屋も多様性の時代。超個性的な店づくりと、店主の思いが反映された選書で勝負するといいだろうと岩田さんは言うのだ。

「一万円選書」に限らず、今の時代を生き抜くアイデアはたくさんあるに違いない。現に、いわた書店さんは、YouTubeを始めてみたり、イベントを開催したり、他業種とコラボしたり、数々の取り組みをおこなっている。本を売る側も買う側もワクワクするアイデアは他にどんなものが考えられるだろうか。この本は、書店経営に悩んでいる人はもちろんのこと、出版不況の打開策を探る出版社、さらには、本を愛する人たちの心にも響くことだろう。心から本を愛し、書店員という仕事に情熱を燃やす岩田さんの姿を見ていると、なんだか元気付けられる。この本を読むと、本屋の未来は、きっと明るいものになるに違いないと思わされるのだ。

文=アサトーミナミ

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