とっとと起きてクッキングを始めるぜ!――ヒップホップ界のドン、スヌープ・ドッグ直伝の「最高の食い方」

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更新日:2022/4/6

スヌープ・ドッグのお料理教室
『スヌープ・ドッグのお料理教室 ボス・ドッグのキッチンから60のプラチナ極上レシピ』(スヌープ・ドッグ、KANA/晶文社)

 言わずと知れたギャングスタ・ヒップホップ界のスター、スヌープ・ドッグの料理本。本書を前に筆者は、音楽好き、食べること大好き人間としての興味だけでなく、料理本としての未知のポテンシャルへの期待に胸が高鳴った。その音楽はもちろん、セールス的功績や経歴において、いろいろな意味で我々の度肝を抜いてきたスヌープ・ドッグは、料理本の歴史もその「ヤバさ」において塗り替えている。

『スヌープ・ドッグのお料理教室 ボス・ドッグのキッチンから60のプラチナ極上レシピ』(KANA:訳、晶文社)は、ライフコーディネーターのマーサ・スチュワートとの人気料理番組を持つほどの料理の腕前を誇る、スヌープ・ドッグによるレシピ本だ。朝ごはんからランチ、ディナー、スイーツ、パーティ料理、カクテルなど、彼を形作った「おふくろの味」や、ドッグを虜にした世界各国の料理をアレンジしたオリジナルレシピまで、幅広く紹介している。

スヌープ・ドッグのお料理教室
ダウン・アンダー・ロブスター・テルミドール

スヌープ・ドッグのお料理教室
OGチキン・アンド・ワッフルズ

 味や見た目にこだわる繊細さと、つべこべ言わず体にエネルギーをぶちこむような豪快さに満ちた料理は、美しくパワフルな輝きを放っている。平山夢明氏の小説『ダイナー』を地で行くような料理の数々は、彼の音楽スタイル同様に、とにかく気分がアガる。料理に添えられるコメントではドッグ節がさく裂していて、中にはちょっときわどいエピソードも。実際、ドッグは世間のイメージと裏腹に料理好きで家庭的だというが、日本の料理本やメディアでよく用いられる「あの強面芸能人も実は料理好き」的な意外性を期待して本書を開くと(実は筆者もそうだった)、そんな安易な想像力しか持たない自分を戒めたくなるだろう。スヌープ・ドッグは料理においても、やっぱりスヌープ・ドッグなのだ。

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スヌープ・ドッグのお料理教室

 完成写真がない料理もあったり、レシピのフォーマットが一致していなかったりと、料理本の型にはまっていないのも、本書の特徴だ。そのため、日本のわかりやすい料理本に見慣れている読者には違和感があるかもしれないし、普段使いとしてキッチンに置いておくような用途も期待できない。でも、そこがいいのだ。

 しかし本書は、目まぐるしく変わるレイアウトや大胆な原色使い、時折挟まれるシーン別のドッグのおすすめプレイリストなど、料理本のセオリーをある種おちょくるような遊びに満ちている。本の作りは大胆だが、自らを「ビッグ・スヌープ様」と呼ぶドッグの独特の語り口の日本語訳、日本ではなじみのない言葉を説明する注釈など、原著の魅力を伝えるための工夫も多く、読者に対して誠実だ。アメリカ南部のソウルフードやセレブらしいゴージャズな料理、そしてドッグの楽曲でおなじみの「ジン&ジュース」のレシピを彼の言葉とともに堪能すれば、食を通して、彼の生きざまや彼の生きる土地の空気に触れる感覚が味わえるはずだ。

 日本ではあまり見かけない食材や調味料が使われているのも刺激的。巻末には、訳者のKANA氏による「代用食材リスト」もあるので、料理好きなら、食材を揃えるところから楽しんでトライできるだろう。普通の料理本が物足りなくなった人にぜひ手に取ってほしい、衝撃の料理本だ。

文=川辺美希

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