イケない遊びを覚えてしまった、男子高校生のアブナイ青春グラフィティ『友情バイブレーション』

マンガ

公開日:2022/4/13

友情バイブレーション
『友情バイブレーション』(赤いシラフ/白泉社)

 古のJKは下着のなかにポケベルを入れて振動を楽しむこともあったらしい……と文献で読んだのをきっかけに、「やば…」と思いつつも現代のスマホでDKに置き換えてみたらどうだろうと魔がさしたというマンガ家・赤いシラフ氏の『友情バイブレーション』(白泉社)。

 主人公は、突然の持ち物検査から逃れるようとするクラスメートの千崎から、ズボンにスマホをつっこまれてしまった菱川だ。ズボンどころかパンツのなかに滑り落ち、人気者ゆえに始終着信しっぱなしの千崎のスマホに敏感なところを刺激され続け、反応してしまった菱川は股間をおさえてトイレに逃げこむはめに。察して追いかけてきた千崎はドン引きするどころか興味津々。マッサージ用と称してバイブ機能を提供するアプリをその場でダウンロードし、互いに直接は触れないまま、2人は快感の絶頂に達する“遊び”を覚えるのだが……というのが物語の導入。

 古のJKもやばいが、そんなアプリが実際にわんさか流通している現代社会もけっこうやばいなと思いつつ、学校でイケない遊びに興じる“友達”となった2人の背徳感もたまらない。

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 トイレの個室。放課後の教室。2人の関係は誰も知らないし、見ていない。けれど千崎のスマホには、友達が一人もいない菱川と違って、無数の友人たちが存在しているのである。千崎のスマホがふるえるたび、それがたとえアプリであっても無数の誰かの存在を感じて、妙な気持ちにさせられる。いつでもどこまでも謙虚で素直な菱川だから、「自分だけが特別」なんて優越感は抱かないけれど(なにせ友達がいなすぎて、友達というのはみんなこういうイケない遊びをしていると思いこんでいたくらいだ)、それでも2人きりのその瞬間は、無数の誰かよりも自分が千崎の視線を、興味をひとりじめしているという事実は、体以上に心を高揚させるものだろうし、なにより読んでいるこちらが身もだえさせられる。

 優越感を抱いているのはむしろ千崎、というところもイイ。誰も知らない菱川のかわいさを自分だけが見ることができる、その喜びに浸りながらも、なかなか恋人に関係が進展しないことにじれったさを感じてもいる。菱川に自分以外の(普通の)友達ができるのはいいこと、のはずなのに、クラスメートと楽しそうに談笑しているのを見ると、ただの友達と今の自分との境目はどこにあるのだろう? と不安になる。なぜそこまで菱川のことを……というかそもそもどうして親しくもない菱川にスマホを預けようとしたのか、後半で明かされるその理由もよかった。

 といいつつ、勝手にスマホを押し込んで、体が反応してしまったのをいいことに、そういう関係になだれこむのは、ともすれば暴力的な行為でもある。けれど千崎のそれが、なぜ菱川を傷つけることがなかったのか、同じ“興味津々”でも相手の尊厳を貶めるものとそうでないものとの違いも本作ではしっかりと描かれる。不器用に相手を慈しもうとする2人がじっくりしっかり“恋人”になっていく過程を、これからもぜひ読ませていただきたい。

文=立花もも

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