【第22回】Kindleとうとう国内サービス開始! アマゾン ジャパンの中の人に素朴な疑問を聞いてみた

更新日:2014/3/6

徹底した顧客中心主義の先に

まつもと :お話しをうかがっていると、「顧客第一」というポリシーが各所で徹底されていることが分かります。これはユーザーからするとありがたい話ではあるのですが、出版社や既存の流通にとって、それをどう捉えるべきか意見が分かれるところです。

例えば、「日本の多様な出版文化を支えてきたのは、中小の出版社や印刷会社である」といった主張をされる方もいます。「紙の書籍はデジタル版よりも低い印税設定だが、それによって、出版社の新人育成のための内部留保が生まれている」といった意見もあります。「海外に比べ書店の数が多いことは読書文化を育んでいる(電子書籍はそれを壊す)」というものもありますね。

そういった見方と、アマゾンが唱える「顧客中心主義」というのはどう整合するのか、という点についてKindle担当であるお二人のコメントをいただきたいと思います。

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小河内 :やはり私たちはお客様の方を常に向いていたいと考えています。最終的にお客様がどういった選択をされるのか、我々は愚直にお客様が欲するものを提供していきたいと。

我々が誇りにしている数字があります。北米の2011年の数字ですが、Kindle端末を買ったお客様の購買動向を分析していると、購入した前と後とで書籍の購入数が4.6倍にもなっているんです。私たちとしては、どうすればより多くの本を読んでいただけるのか、より豊かな読書体験を提供できるのか、という点にフォーカスしていますので、この数字はとてもありがたいものとして受け止めています。

いまお話された懸念というのも、理屈の上では分かるのですが、我々としてはこのようにお客様が欲するものをどのように提供していくのか、というのが一番大事な点だと思っているんです。

まつもと :まずは読まれてこそ、ということですね。

小河内 :そうですね。特にPaperwhiteは本を読むことに特化したデバイスですし、本を購入していただくことが目的となっていますので。私たちとしてはお客様がKindleを使ってもっと本を読みたいと思うような環境を作っていくことが、我々の仕事だと考えています。

友田 :私どもも含めて、みな中間業者なんですよね。お客様と、本当の意味でのコンテンツホルダー=著者の間にいるのは、単なる中間業者なんです。著者が生み出すコンテンツに付加価値を付けることができなければ、存在意義はないはずです。

私たちアマゾンは、お客様と一番近い場所にいて、お客様にどう付加価値を提供して我々を選んでいただけるか、ということに注力しています。したがって、既存のストラクチャーの善し悪しは私たちには分かりませんし、コメントをする立場にはないと考えています。最終的にはお客様が決めることです。

まつもと :2010年のいわゆる「電子書籍元年」から、日本型の出版流通のあり方の議論がいろんなところでは行われていますが、まだ着地点、最適解は見いだせてないように思えますね。

友田 :それについてもやはりコメントできる立場にはないのですが、1つだけあるとすれば、そういった場に、「顧客」が加わっているべきではないのかなと思いますね。余計な発言になってしまうかもしれませんが(笑)。

 


 
~帰り道~

かべ :いかがでしたか? まつもとさん。

まつもと :そうですね。徹底的に「顧客中心」を軸に置いているので、サービスの設計や狙いが単純明快でした。最後に指摘があったように、アマゾン・Kindle、あるいはガフマ(GAFMA:グーグル・アマゾン・フェイスブック・マイクロソフト・アップル)と呼ばれるような海外勢に対してカウンターを出していくには、やはり読者=顧客にとって何が大事なのか、ということをもう一度整理し直す必要があるかもしれないなと。「出版文化」をお題目にしても、そこに読者不在だと確かに説得力に欠けます。

かべ :ふむふむ……。ところで、今日もエージェントモデルという言葉が出てきましたけれど、その「エージェント」を全面に打ち出した「コルク」という会社があります。次回そちらを取材しませんか?

まつもと :お、いいですね。講談社で小山宙哉さんや、伊坂幸太郎さんを担当していた編集者の方々が独立して会社を作ったというアレですね。了解です!

 

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イラスト=みずたまりこ

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