明らかに間違った行為をしている相手に、やってはいけない悪質な返答/悪魔の傾聴①

ビジネス

公開日:2022/10/13

『東京貧困女子。 彼女たちはなぜ躓いたのか』(東洋経済新報社)や、2度も劇場映画化された「名前のない女たち」シリーズ(宝島社)など、長年、AV女優や風俗、介護に関する社会問題を取材している、ノンフィクションライターの中村淳彦氏。3000人超を取材してきたインタビューのプロが、ついに明かす「悪魔の傾聴テクニック」が1冊に。『悪魔の傾聴 会話も人間関係も思いのままに操る』(飛鳥新社)の中から、本音を知りたい相手に使えるテクニックを、全5回でお届けします。

悪魔の傾聴
悪魔の傾聴』(中村淳彦/飛鳥新社)

傾聴中の聞き手の意見

【NG】 あなたはお母さんなのだから、子どもの気持ちになろうよ!

【OK】 うん、うん。そうなんだ

 女性(40代シングルマザー)の語りはなかなか深刻でした。親のネグレクトや度重なる彼氏の暴力で精神疾患になり、さらにセックス依存症のような状態でした。

 それから不倫や行きずりの肉体関係を繰り返して、初婚の夫には愛想を尽かされて離婚。息子を抱えるシングルマザーとなって、さらに父親のわからない娘を出産していました。

「医者に解離性障害と診断されました。就労はできないと。働くことだけではなく、恋愛も精神状態が不安定になるからと禁止です。親も兄も疎遠となってどこにも友達もいないし、孤独でおかしくなりそうです」

「手段は出会い系サイトしかなくて、医師の意見を無視してひたすら見知らぬ男と会うようになりました。もう、数えきれないほどの男性に会っています。自分でもわけがわからない感じで、男の人に優しくされたくて、優しい言葉をかけてもらいたくて、いまも、ひたすらメッセージのやりとり。子どもは放置、ネグレクトです」

 よくないことをしている自覚はあるのですが、自分では、どうにもならないようです。

 悪魔の傾聴を身につけて、相手の本音を聞けるようになると、おそらくみなさんも日常生活でこのような自己開示をされるようになります。

 相手にとってネガティブな過去や現状の自己開示があったとき、その相手との関係性の分岐点となります。

 

聞き手の意見が傾聴をぶち壊す

 この女性は、明らかに間違った行為を繰り返しています。しかも、本人にその自覚があります。そのような状況で、例えば、「あなたはお母さんなのだから、子どもの気持ちになろうよ!」といったような、意見を言ってしまう人がいます。上から目線なうえに、非常に悪質な返答です。

 悪魔の傾聴の目的は、相手から最大限の本音を引きだすことです。そのような自分の意見は、まず目的から逸脱しています。せっかく自己開示をしても、その瞬間に語りはトーンダウンしていきます。

 ネグレクトされている子どもは気の毒ですが、相手の自己開示に対して自分の意見は決して口にしてはいけません。どうしても言いたいならば、制限時間である90分以上が経って、語り終わった後にしましょう。

 会社の上司部下、学校の教師生徒のような関係なら、さらに気をつけるべきです。

 仮に部下が本音を語ってくれたとしても、上司が上からの立場で意見を言った瞬間、部下は萎縮し、元の関係に戻ってしまいます。

 その後、部下の語りは鈍化、もしくはなにも言わなくなります。

 これは典型的な傾聴の失敗です。

POINT 傾聴中は自分の意見を言わない

<第2回に続く>

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