相手を否定してアドバイスすることが「最悪な行為」である理由/悪魔の傾聴②

ビジネス

更新日:2022/10/14

『東京貧困女子。 彼女たちはなぜ躓いたのか』(東洋経済新報社)や、2度も劇場映画化された「名前のない女たち」シリーズ(宝島社)など、長年、AV女優や風俗、介護に関する社会問題を取材している、ノンフィクションライターの中村淳彦氏。3000人超を取材してきたインタビューのプロが、ついに明かす「悪魔の傾聴テクニック」が1冊に。『悪魔の傾聴 会話も人間関係も思いのままに操る』(飛鳥新社)の中から、本音を知りたい相手に使えるテクニックを、全5回でお届けします。

悪魔の傾聴
悪魔の傾聴』(中村淳彦/飛鳥新社)

支援が必要な相手に対して

【NG】 助けるため、積極的にアドバイスする

【OK】 口を挟まず、最後まで話を聞く

 自分の意見はすべて封印するべきですが、特にやってはいけないのは相手の語りを否定して、アドバイスすることです。

 これはリアルな対面コミュニケーションで多くの人に見受けられる最悪な行為です。

 そもそもアドバイスする時点で対等な関係ではなく、上から目線となってしまいます。

 精神疾患を抱えて子どもをネグレクトする女性(40代シングルマザー)の語りの最中、仮に「健康が大切だよ。だから、お医者さんの言うことは聞かなきゃ」とか、「男性と会うより、子どもとちゃんと向き合ったほうがいいよ」みたいなアドバイスを言ってしまったとします。

 男性と会っている現在進行形の行為を否定して、健康や家庭を大切にしようというアドバイスです。そんなことは言われなくても、本人は重々理解していることです。

 おそらく女性はウンザリした表情になって、

「そうですよね、わかっています。これから子どものために頑張る努力をします」

 みたいな返答をするでしょう。

 否定してアドバイスしたがるあなたとのその場を壊さないための、意見やアドバイスを受け入れるふりをした取り繕った返答です。

 場を壊さないためだけの返答なので、その返答は本心ではありません。

 あなたにさらなるアドバイスを求めるかもしれませんが、それはあなたがアドバイスしたがっているので、優しい女性は気を遣っているわけです。

 そして、語りのゴールはまだ先にあったのに終了となります。満足しているのはアドバイスしたあなただけです。

 実際はその先に寂しさからくる男性依存や児童虐待という、深刻な問題があったとしても、あなたが否定しアドバイスしたために、その先の問題を聞くことができなくなってしまいました。

 悪魔の傾聴では、相手がどんな無知でも、どんな愚かなことをしていても、もっと語るように環境を整えながら、聞き続ける必要があります。

 聞き手であるあなたが、相手の語りに共感できるか、肯定できるかという主観は、悪魔の傾聴中はどうでもいい感情として消去します。

 

相手の信頼に応えるために、聞き手に徹する

 男遊びやネグレクトの自己開示は、一般的には人から怒られる行動です。

 相手はリスクを背負って語っています。それは傾聴する過程で聞き手を信頼したからであり、まず大前提としてその信頼には応えなければなりません。

 自分の意見は言わない、否定しない、アドバイスしない―それは相手の信頼に応える最低条件となります。絶対にやってはいけないことなのです。

 筆者は当然、そのようなミスはしないので、語りはどんどんと先に進んでいきます。

「実は長女にはネグレクトではなく、虐待しているかもしれません。毎日、毎日、ずっとイライラしています。最近、子どもに暴言を叫んでいます。朝や夜、必ず子どもに怒っているんです。うるせーんだよ! 静かにしろよ! って。お風呂に入れるとか、着替えさせるとか、イライラすることは上の子にいろいろ押しつけるようになりました」

「私は男とネットでやりとりしているか、一日中ぼーっと寝ているだけ。カラダを動かすのは彼氏に会いに行くときくらい。育児をする気が起きません。このままではいけないって思っているけど、毎日同じことの繰り返しです」

 結局、女性は90分を大きく超えて150分近くを語り続けました。

 筆者は集中力を失って、最後のほうは上の空でした。女性は子どもをネグレクトして虐待し、自分は孤独感から男と遊び続けている、そんな現状がわかりました。

 語りを聞いた後、相手に対してどうするかは、それぞれの目的によります。

 筆者の目的は記事にすることなので、それで終わらせて女性を見送りました。たとえば相手が恋人だったら生活の立て直し、ソーシャルワーカーだったら虐待の解決、医療だったら精神的な治療に着手するのでしょうか。

 いずれにしても相手に対して、自分の目的を持ちだすのは、相手の語りがゴールに達してからになります。

 女性の深刻な生活状況がわかったのも、疲れながらも最後まで傾聴したからです。

 語りの途中で男遊びしていることを否定して、アドバイスして語りを終わらせてしまったら、子どもが虐待されているいまは見えなかったことになります。

POINT 否定しない。アドバイスしない

<第3回に続く>

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