どうやらこのお笑い芸人という山では一番になれない。ならば自分で山を作ってそこで一番になればいい/スターにはなれませんでしたが②

文芸・カルチャー

公開日:2023/4/9

スターにはなれませんでしたが』(佐藤満春/KADOKAWA)第2回【全5回】

 オードリーや日向坂46メンバーなど多くの人気芸能人から信頼を集める佐藤満春氏が自身初の書き下ろしエッセイを刊行!「ヒルナンデス」「オードリーのオールナイトニッポン」など人気番組19本を数える放送作家のほか、お笑い芸人、トイレや掃除の専門家、ラジオパーソナリティ……といった様々な顔も持ち合わせる“サトミツ”の人生観や仕事観、芸人観を綴ります。さらに本書には若林正恭(オードリー)、春日俊彰(オードリー)、松田好花(日向坂46)、DJ松永(Creepy Nuts)、山里亮太(南海キャンディーズ)、安島隆(日本テレビ)、舟橋政宏(テレビ朝日)という豪華メンバーとの特別対談も収録。発売後即重版となり話題沸騰中の本書の一部を、5回連載でお届けします。

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スターにはなれませんでしたが
スターにはなれませんでしたが』(佐藤満春/KADOKAWA)

 実は特段何かの自信を持って始めたわけではない芸能人生。現場では、会う人会う人が面白い人ばかりでした。

 今もなおそうなのですが、僕の周りには「努力も惜しまない(むしろそれを努力とすら感じてないほどのエンジンを搭載した)天才」が山ほどいます。みんなほどほどに変人で、とても面白い。ともするとやばかっただろうな、いや、今も存分にやばいか‼ そうわくわくさせてくれる天才たち。

 そもそも自己肯定感も低く、消去法で芸人になった僕にとって、「圧倒的な才能」「実力者」を前にしたときに、真っ向から同じ武器で戦うことは絶望でしかありません。

「なるほど、どうやらこの山は登りきれないか、それどころか遭難しそうだな…」

 僕は芸能界のお笑い芸人という大きなその山を一旦降りて、よく見てみることにします。その山がどのくらい大きいのか? どのくらいの競争で、どのくらいひしめき合って、どのくらいの脚力が必要なのか? 冷静に考えていくうちに、これはちょっと難しいぞと思ってしまった、思ってしまったのです。

 そこで僕が始めたのは「自分で山を作ってそこで一番になる」作業です。

 芸能生活でも私生活でも「パンチがない」「個性がない」と言われ続けた僕は、目の前の高い山を見上げ、たくさんの才能に圧倒されて絶望した後、希少性の獲得に踏み出します。つまり、「芸人界」というどでかい山を降り、「トイレ」「掃除」「放送作家」という掛け合わせで自分だけの山を勝手に作り、勝手にその山で一番になってみたのでした。

 僕のことも、僕の登っている山のことも、誰も知りません。

 でも、いいのです。僕のことなので。

 僕は自分の作った希少価値で勝手に作った山を登り、勝手に頂上で旗を立ててみたわけです。ここに関して別に「すごいことだ」とも思ってませんし、「恥ずかしい」とも思っていません。他に生き延びる手がなかったんです。

 生まれながらにして人それぞれの武器はあると思います。生まれも育ちも見てきたものも感動したものも違うのだから、勝手に何かしらの武器を手にしているはずなんですよね。

 そこで鍵になるのが手にした武器に注ぎ込む熱量でしょうか。そうして、ある種正攻法で進むことを諦めてきたからこそ、得られたことが今につながっています。

 20代の頃はまだ、自分が「面白い」とか「センスがあると思われたい」といった自我はあったと思います。

 背伸びしてでも面白いと思われたいという自我。ただ、薄々気が付いていた現実。自分に才能がないことと向き合うには、「諦める」しかありませんでした。その卑下とプライドのバランスみたいなところを行ったり来たりしながら、20代、30代と生きてきて、ここ数年でちょうどバランスが取れるようになった感じがしています。

 一つのことで旗を立てられなかったからこそ、いろんなことをやっています。旗を立てられなかったというのはその言葉だけだとマイナスに間こえるけど、でもその自分を受け入れている。受け入れて、愛するしか、ないんですよね。いつ死んじゃってもいいと思う反面、自分のそんなささいな個性を愛そうとも思っているというか。諦めるということはネガティブに受け取られがちではあると思いますが

 やはり、そこには勇気も決断もあり。違う方向性の可能性も生まれます。そういう戦い方があってもいいし、他人にどう思われたって仕方ない。それしかできないのだから。

<第3回に続く>

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