転機は「たりないふたり」という企画。尊敬する人たちからの需要は自信を持つ礎となった/スターにはなれませんでしたが④

文芸・カルチャー

公開日:2023/4/11

スターにはなれませんでしたが』(佐藤満春/KADOKAWA)第4回【全5回】

 オードリーや日向坂46メンバーなど多くの人気芸能人から信頼を集める佐藤満春氏が自身初の書き下ろしエッセイを刊行!「ヒルナンデス」「オードリーのオールナイトニッポン」など人気番組19本を数える放送作家のほか、お笑い芸人、トイレや掃除の専門家、ラジオパーソナリティ……といった様々な顔も持ち合わせる“サトミツ”の人生観や仕事観、芸人観を綴ります。さらに本書には若林正恭(オードリー)、春日俊彰(オードリー)、松田好花(日向坂46)、DJ松永(Creepy Nuts)、山里亮太(南海キャンディーズ)、安島隆(日本テレビ)、舟橋政宏(テレビ朝日)という豪華メンバーとの特別対談も収録。発売後即重版となり話題沸騰中の本書の一部を、5回連載でお届けします。

【30日間無料】Amazonの読み放題をチェック >

【初購入金額がポイント70倍】楽天Kobo電子書籍ストア


スターにはなれませんでしたが
スターにはなれませんでしたが』(佐藤満春/KADOKAWA)

 少しずつ作家の仕事は増えていきましたが、転機になったのは「たりないふたり」です。「放送作家として経験を積んで、幅を広げようと模索しているサトミツは見たほうがいい」と若林君に呼んでもらって見に行ったのが、「潜在異色〜見せたことない見せたいワタシ〜」という日テレ主催のイベント。そこに出ていたのが若林君と山里亮太さんのユニット「たりないふたり」でした。

 もう腹がよじれるほど笑って、イベント終了後、若林君に「『たりないふたり』、次にやることがあったらなんでもやるので手伝わせてほしい」と伝えたところ、主催演出の日本テレビ安島さんにつないでもらうことに。安島さんと面談(というか雑談)させてもらい、予算はないけど一緒に面白いものを作りましょう!と受け入れてくれて。

「潜在異色」で既に感じていましたが、安島さんは天才的なアーティストタイプの演出家さんで、まず安島さんに受け入れてもらったことが大きな喜びでした。

 ただ大きな条件が一つ。「山ちゃんがいいって言ったらいいよ」と。

 中目黒の居酒屋の個室で、山里さん、若林君、安島さん、僕の4人で初会合が開かれることになりました。イベントの反省会及び、今後の展望を話す会になるとのこと。

 山里さんと初対面だった僕が緊張しながら挨拶すると、山里さんは笑顔で僕を迎え入れてくれました。次のイベントの話になった際に、僕は勝手に考えていった「たりないふたり」の企画案や展開案を3人に渡し、なぜ僕がこの企画のお手伝いをしたいか、その理由と共に伝えました。膨大な企画案を見た山里さんは「ああ、面白いですね」とぼそっと言ってくれましたが、直後、その紙をそっと置き、芸能ゴシップを語りだしました…。今思えば「面白いですね」は「まあ、この企画はさておき」という意味合いだったのかもしれないな。

 帰り道、山里さんと同じタクシーに乗った安島さんからメールで「サトミツが『たりないふたり』のお手伝いをする件、山ちゃんOKだって」と連絡をいただきました。以降、僕にとってもがっつりとお笑いと向き合い、貴重な場所としてお手伝いすることになります。「たりないふたり」は山里さん、若林君、安島さん、そしてそこに僕が入らせてもらう形で、4人でイベントの中身などを考えていました。日テレの狭い会議室で、深夜、フロアに誰もいない中、こそこそと面白いことを考える。この企画が大きくなっていくたびに新しい人が増えて、番組になり、大きなイベントになり…最終的には数万人が試聴するイベントになっていくわけです。

 企画が少し大きくなりはじめた頃、僕が他の仕事とかぶって打ち合わせに行けない日がありました。その夜、若林君をはじめ山里さん、安島さんと皆さんから「サトミツがいなくて大変だった」と連絡をもらったのです。

 若林君と山里さんの漫才は、アドリブから派生して生まれていきます(最終的には本格的なアドリブ漫才になりますが、初期はある程度、フレームはありました)。

 その稽古の際、僕が現場にいるときは派生したアドリブを全てその場で台本に追記し、漫才が終わる頃には、先ほどの漫才で使えそうなアドリブブロックを追記した台本ができ上がっているという形でやっていました。タイピングが得意で助かりました(笑)。それが、僕が休んだことにより、「さっきまで盛り上がっていたアドリブを誰もメモしてないし、誰も思い出せない」という事態に陥ったそうなのです。それ以来、打ち合わせは録音をしておくことになったそうです。自分がいなくなって初めて、「その役割」を認識してもらうことってあるのだなと実感した日となりました。

 そこからは若林君はもちろんのこと、山里さんがインタビューでおすすめの放送作家として僕の名前をあげてくれたり、安島さんが「スッキリ」の仕事を紹介してくれたりと、皆さんに本当に助けていただきながら、「たりないふたり」を原点に僕自身も成長していけたのではないかと思います。結果的に週5で日テレに出勤することになったり、山里さんとは「スッキリ」の「クイズッス」のコーナーで、週4ご一緒する関係になったり、僕の今の生活はここから始まったのだと心から思います。感謝。

 30代から40過ぎまで、部活のように寝ずに面白いことを考え続けることができた場は他にありませんし、僕のお笑い筋肉を鍛え上げてくれた修行の場となりました。間違いなくここも僕の軸を作ってくれた場所です。

「たりないふたり」において、僕が必要とされる瞬間は言葉にできないものですし、どんなに「たりないふたり」が評価をされても、僕の評価が上がるということはもちろんありません。でも実感としてあったのは、「この面白い3人が僕を必要としてくれていた」経験です。

 尊敬する人からの需要は、これまで何の自信も持てなかった僕にとって、初めての自信の礎になっていきました。若林君と山里さん、安島さんに僕の仕事を見てもらえていた実感があったからだと。たとえ世の中に僕を評価している人がいなくても、僕が面白いと思う人たちが僕の仕事を評価してくれているなら、そこにいる意味はあるのだと。その誰かに出会えた僕は幸運だったと思います。

<第5回に続く>

本作品をAmazon(電子)で読む >

本作品をebookjapanで読む >

本作品をコミックシーモアで読む >

本作品をBOOK☆WALKERで読む >

あわせて読みたい