ギャルがシルバニアファミリーを溺愛したら… Twitterで話題の『#ギャルバニア』作者にインタビュー【今月のバズったマンガ】

マンガ

公開日:2023/7/18

 今どき面白いマンガはSNSにあり! ということで、本連載ではSNSで話題になった面白いマンガをピックアップし紹介していきます。

提供:Minto編集部

 人はギャップに弱い生き物。本稿では「ギャルのギャップが尊い」とTwitterで話題になり書籍化した『ギャルがシルバニアファミリーを溺愛したら。#ギャルバニア』(岡野く仔/講談社)をご紹介します。

 全然違うタイプに見えるふたり。ある日の授業中、きつめギャルの美守座(みもざ)が取り出したのは、シルバニアファミリーの人形。人形で遊ぶ様子を偶然見てしまった、優等生の菜々子。ノートに家の間取りを描いたり、けんけんぱをさせたりと結構本格的。菜々子に見られていることに気づき、頬を赤らめる。その様子を見て「幼女じゃん…かわよっ」と思う菜々子。

#ギャルバニア

 読んでいるこちら側も思わず「幼女じゃん」と言いたくなる、可愛さとエモさと尊さが同居する不思議な感覚が本作品の魅力である。そして「自分の好きな物を大事にしたい」という想いと葛藤が込められた女の子たち(大人たちも)の成長の物語に読めば読むほどハマっていく。

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 タイトルにもある通り、このお話はシルバニアへの愛が詰め込まれている。書籍化にあたって、なんとシルバニアの生みの親、エポック社の公認に。作者である岡野く仔さんも、てっきりたくさんのシルバニアに囲まれた生活をしているのかと思いきや、実は…?

 本インタビューでは、なぜ『#ギャルバニア』が生まれたのか、その裏話や作品への想いを深掘りすると共に、岡野く仔さんご自身の漫画家としての展望を伺った。

シルバニアへの憧れから生まれた『#ギャルバニア』

――『#ギャルバニア』を描き始めたきっかけは何でしょうか?

岡野く仔さん(以下、岡野):ちょうど1ページ漫画でコマ割りを研究していた時期で、そういった漫画をTwitterに投稿していました。その中で、『#ギャルバニア』の元になる1ページ漫画の反応がすごく良く、続きを描いたのがきっかけです。

――『#ギャルバニア』はシルバニアへの愛が溢れていますが、元々シルバニアがお好きだったのでしょうか?

岡野:そうですね。幼い頃にシルバニアを買ってもらったことや、遊んだことがなかったので…。夢というか、憧れを描いていました。

――幼少期に遊べなかった憧れが漫画につながったのですね。『#ギャルバニア』の魅力の一つに「ギャルなのにシルバニアが好き」というキャラクターのギャップがあると思うのですが、キャラクターや作品を描くにあたって、気をつけている点や工夫している点はありますか?

岡野:キャラクターはギャップがあった方が、かわいいと思っています。『#ギャルバニア』は、私の好きなタイプの人間しか出てこないんです(笑)。「こういう人たちがいたら良いな」と、本当に自由に描いています。

 それと、セリフに関しては聞き心地が良いというか、丁寧な表現や喋り方を心がけています。“人形”だったら“お人形”とか。そういう喋り方を意識していますね。

シルバニアで広がる世界

――『#ギャルバニア』の作中で、岡野さんご自身が特に気に入っているシーンやエピソードを教えてください。

岡野:茂原先生という先生が登場するのですが、この先生のエピソードには思い入れがあります。

#ギャルバニア
登場当初はモラハラ先生と呼ばれていた茂原先生

#ギャルバニア
はじめは茂原先生に怯えていた美守座たちだったが、シルバニアがきっかけで、怖くないことがわかり関わりが増えていく。仲良くなった後は先生の恋愛相談にも乗ることに

岡野:茂原先生と美守座たちが共通の趣味であるシルバニアを通して打ち解けた、ということではなく、“シルバニアを通してモラハラを直す”ところを描きたかったんです。茂原先生は自分がモラハラ教師であるということに気づいていません。でも、シルバニアを通して仲良くなった美守座たちの指摘で、自分のダメなところに気づいて直していく。「根は良い先生でした、おわり」ではなく、先生だって言っちゃダメなことを言ったら怒られる。「根は良い先生だから」美守座たちの言葉で変わっていく、といった感じで。そんな先生と生徒の交流を描きたかったんです。あとは、授業中に話を聞いてない、授業中に遊んでいるところは、書いていて楽しいですね(笑)。

#ギャルバニア
美守座たちに矯正される茂原先生

#ギャルバニア
授業中に遊んでいて逆に茂原先生に怒られる美守座

――茂原先生が徐々に良い先生になっていく姿は見ていて面白かったです! では、『#ギャルバニア』を書き始めての反響だったり、印象的だったりしたことはありますか?

岡野:エポック社さんに許可をいただいたときに「良かったら、参考にしてください」と、何個か参考品のシルバニアファミリーのおもちゃをいただきました。幼い頃、私がずっと欲しかったシルバニアで、本当にうれしかったです。幼い頃から憧れていたシルバニアだったので、今ようやく手に入った喜びでいっぱいでした。うれしすぎて、眺めてはニヤニヤしています。見るたびに「私、シルバニア持ってる!」と幸せな気持ちになるんですよね。

――すごく素敵です。エポック社さんに許可をいただいたのですね。反応はどうでしたか?

岡野:私が勝手にシルバニアファミリーの話を描いていたので…(笑)。書籍化にあたり、許可をいただきに行きました。最初は書籍化はできるかわかりません、という状態が続いていたんです。でも無事に許可をもらえることになりました。

 東京おもちゃショーで初めてエポック社の担当の方にお会いした際に、「こういうことはあまり許可を出していないけれど、内容がめちゃくちゃ愛に溢れていたので」という言葉をいただきました。うれしかったですね。

漫画家を目指した原点は「父」

――続いて、岡野く仔先生ご自身について聞かせてください。漫画を書き始めたきっかけを伺えますか?

岡野:父が絵を描いていて、すごく上手いんです。物心ついた頃から父親にねだっていろいろなものを描いてもらったり、姉と一緒に絵を描いたり、絵に囲まれて暮らしてきました。家の近くに飛行場があり、毎年行われる飛行機の写生大会があって、そういったことにも参加していました。

 小さい頃から絵に触れてきたんです。といっても、本格的な油絵とかではなく、趣味の範囲で描いていたんですが。でも、父親の絵のレベルが本当に高く、漫画に対してはなかなか「上手い」って褒めてもらえないんです。普段はめちゃくちゃ優しい父親なんですけど。父も、漫画家を目指していた時があり、古いスクリーントーンのお下がりももらったりして。なので、正直漫画家になれると思っていませんでした。

――褒めてもらえなかったのはちょっと悔しいですね。

岡野:そうなんですよ。一方で周りから絵が上手いと言われたり、よく「漫画家になるの?」と聞かれることもあったのですが、「私そこまで絵は上手くないし…」と思っていましたね。

 その頃から『週刊少年ジャンプ』を読んでいて、プロのレベルの高さ、話の面白さも実感していて…。ストーリーも自分で考えなければいけないし、話が一番大事だから私のレベルでは「漫画家にはなれない!」と思い込んでいたんです。正直、漫画の原作か、小説の挿絵の絵描きになるか、物語なのか絵なのか、どちらを極めるかを選ばないとと思っていたんです。

――そうだったんですね。そんな中で、漫画家になられたきっかけはなんですか?

岡野:漫画家という選択はなく、看護師になりたいと思っていました。

 …でも、実は受験のストレスで、心を病んでしまったんです。それで高校も辞めてしまい、ずっと家で好きな漫画の二次創作をしていました。岩手に住んでいて、車の免許を取らないとどこにも行けない田舎なのですが、車の免許もドクターストップで取れませんでした。なのでバイトもろくにできず、絵を描くことしかできなくなりました。

 そんな時に偶然、私が描いていた漫画の二次創作を見てくださった、まんだらけさんが「良かったら、うちで委託販売をしませんか?」とお声を掛けてくださって。その後、お声を掛けてくださった方が、たまたま「まんだらけで新しい漫画のサイトを作るんだけど、そこで連載してみない?」と誘ってくださったのがきっかけでした。「え、私、漫画家デビューするの?」といった感じで、あとはとんとん拍子で、ここまで来てしまいました。

今後の目標は「生涯漫画家」

――絵を描くということを続けていらっしゃったから、今があるんですね。今後挑戦してみたいジャンルや、テーマはありますか?

岡野:いま私が描いているのはギャグ漫画で、一話完結ものが多いので、できたらストーリーものを描いてみたいです。

 結果的に短編で終わってしまいましたが、『僕は叶わぬ恋をする』という、双葉社さんで初めて紙の本で連載させていただいた漫画がありました。双葉社さんで連載していたときに参考にさせていただいた『私の少年』(高野ひと深/双葉社)という漫画があるんです。その作品は、絵も美しければ話も美しくて。私の担当さんがちょうど『私の少年』の作者さんの第二編集者もされていたんです。私も双葉社さんで連載する際には、美しいお話を描きたいと思い続けていました。今もそんな美しい長編を描けたらと思っています。

――そうなんですね。岡野さんの漫画では、女性同士の友情を描いた作品が多いですが、女性同士の恋(百合)がお好きなのですか?

岡野:本当に美しい話を描きたくて。女性同士の恋愛はめちゃくちゃ美しくて、ときめくんです。なんででしょう…女学院とか、女子校とかいう響きに憧れる人間でして。エス(※)とか、お姉さまとか、妹とかいう関係が好きなので。夢を見ていますね。心と心のつながり、清らかな愛を描くのが好きです。

(※)エスとは、特に戦前の、日本の少女・女学生同士の強い絆を描いた文学、または現実の友好関係。sisterの頭文字からきた隠語

――最後に、漫画家としての今後の目標はありますか?

岡野:生涯漫画家ですね。生涯にわたって漫画家を続けたいと思っています。

――すごく素敵な目標ですね! ぜひ我々も、少しでもお力になれたらなと思っております。ありがとうございました。

文=Minto編集部 田中千尋

岡野く仔

SNSを中心に活動するネットマンガ家。
5月22日生まれ。岩手県出身。マイバニアはショコラウサギのみもざと、ほしぞらネコのななこ。著書に『着物ちゃんとロリータちゃん』(まんだらけ)、『ロリータ飯』(KADOKAWA)などがある。
Twitter:@kuko222(https://twitter.com/kuko222

<第5回に続く>

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