「少年ジャンプ+での連載が終わってカラカラのスポンジ状態だった」大友しゅうまが『映画紹介マンガ』を始めた理由【今月のバズったマンガ】

マンガ

公開日:2024/2/29

 今どき面白いマンガはSNSにあり! ということで、本連載ではSNSで話題になった面白いマンガをピックアップし紹介していきます。

提供:Minto編集部

 映画との出会いも一期一会。動画配信サービスで手軽に映画を観られるようになったものの、作品の数が多すぎて途方に暮れる人もいるのではないだろうか。一体なにから観ればいいのやら……と思ったときに、真っ先に読んでほしいのが大友しゅうまさんの映画紹介マンガだ。

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「少年ジャンプ+」で『ゴリラ女子高生』を連載していた大友さんは映画紹介マンガとして、面白かった映画のあらすじをマンガで紹介している。映画の魅力をテンポよく凝縮させた映画紹介マンガは、その映画を知らない人はもちろん、すでに観たことがある人もワクワクさせる。面白い映画と出会う楽しみを改めて感じさせてくれるシリーズだ。

 そんな映画紹介マンガをどうして描き始めたのか、どうやって映画の魅力を切り取っているのかを大友さんに伺った。

「あ、ここは面白い!」をしっかり伝える

──映画紹介マンガではたくさんの作品を紹介されていますが、どういう基準で作品を選ばれているんですか?

大友しゅうまさん(以下、大友):Filmarks(フィルマークス)という映画レビューサイトを参考に、トレンドに合った作品や気になった作品を選んでいます。僕は面白いミステリー映画を観た後は、その次もミステリー映画が観たくなるんです。ヒーロー映画を観たら、他のヒーロー映画が気になりますし。Filmarksだと同じジャンルで検索できるので、すごく使わせてもらっていますね。

 もちろん観た映画をすべて紹介しているわけではなくて、中でもすごく面白かった作品を選んでマンガ化しています。僕はホラーや暴力系の作品が好きなので、『ミッドサマー』のように観る人を選んじゃうけど魅力的な作品も今後は紹介したいと思っています。

──映画は情報量が多いのでどこをどう紹介するかが難しそうです。映画紹介マンガを描く上で工夫している点はなんですか?

大友:やっぱり一番は自分の気持ちだと思うんですよね。映画を観て「あ、ここは面白い!」って感動したところをしっかり伝えるのがすごく大事だなと。ただ単純にあらすじを紹介するだけだと、味気ない紹介マンガになっちゃうので。

 あと、絵柄も見る人を選ばずに見てもらえるように意識しています。見てほしいのは自分のマンガじゃなくて映画のストーリーなので、絵柄に癖があると見る人を選んじゃうと思うんです。だから等身を低くしてポップで可愛らしいものを意識しました。

──大友さんが連載されていた『ゴリラ女子高生』とは全然違うタッチですよね。

大友:以前描いていたのは変顔やゴリラが出てくるギャグっぽいマンガでしたが、今回は意識的に変えましたね。ああいう絵柄は描いている僕は楽しいんですけど、見る人を選んでしまうと思ったんです。

連載が終わってカラカラのスポンジ状態だった

──映画紹介マンガを描き始めたきっかけはなんですか?

大友:『ゴリラ女子高生』が連載終了になって、「早く次の連載作品を出さないと、どんどん読者に忘れられちゃうよ」ってすごく焦っていたんですね。すぐに新しいネームを切って、担当編集の林士平さんに送ったりもしていたんですが、それが全然面白くなくて。

 そこで林士平さんに電話で言われた言葉がすごく印象的でした。「今は連載が終わったばっかりで、自分のアイデアを出し切ってカラカラなスポンジだと思うから、そんな状態で次の連載をすぐなんて無理だよ」と。インプットが足りないからネットカフェに籠るだとか、本屋に行くとか、あと映画を観るとかした方がいいと言われました。

 ちょうどその頃、コロナウイルスの自宅療養期間だったんですよね。時間もあるし、「映画を観るっていいかもな」と。それまで気持ちがずーっと休まらない状態で過ごしていたんですが、コロナにかかって「お前休んでいいんだよ」って許しをもらえた感じがしました。そんな状態で観た映画が本当にびっくりするくらい面白くて、10日間くらいで60本くらい一気に観て映画にどハマりしちゃいました。

 でも、映画を視聴するインプットだけじゃ自分の中に定着していかないと思ったんです。インプットと同時にアウトプットをして、より自分に吸収させるために軽い気持ちで紹介マンガを始めたのがきっかけですね。

2時間の映画は、開始から30分で物語が動く

──映画紹介マンガはネタバレしない線引きのバランスがいつも絶妙ですよね。ネタバレに関してはどういうところに注意していますか?

大友:そこはめちゃくちゃ大事なところなので、すごく意識していますね。マンガでは「この先どうなっちゃうの!?」みたいなところで紹介をズバッと切っています。「気になったなら映画を観てほしいな」と思っているので。

 映画の冒頭では、舞台やキャラクター同士の関係性が説明されますよね。僕の感覚なんですけど、2時間ある映画ならだいたい30分で物語が動くんですよ。だから30分ぐらいで描かれた内容を紹介しようかなと思っています。こういう見方ばっかりしているせいか、映画を観ていて「今、30分くらいかな?」と時計を見たら本当に30分だったりして、変な体内時計みたいなものが正確になってきていますね(笑)。

──物語の動きでいうと、日本映画は特に展開がゆるやかな作品も多いので切り取りが難しそうですね。

大友:本当にそうですね、邦画は難しいなって思います。

 例えば『すばらしき世界』だと、元ヤクザの主人公が殺人罪で長年服役してから出所したものの、生活保護も受けづらくて生きづらい世の中になっているという設定があります。主人公が普通に買い物をしていたら万引き犯と間違えられて、「どうなっちゃうんだろうな」と思ったら誤解が解けて分かり合えたりするんです。つらい目に遭いながらも、主人公は他人と繋がりが持てるんだろうなっていう希望が、映画紹介マンガでも伝えられたらいいなと思って描きました。

 この作品については「どうなっちゃうの?」って展開の後にちょっと希望が感じられるシーンまで描かないと、ちゃんと良さを紹介できないかなと。

映画の佇まいをしっかり表現していきたい

──今まで紹介された映画の中で、特に表現が難しかった作品はありますか?

大友:本当にいっぱいあるんですけど、『RRR』ですね。劇場で観て、あの激アツさに感動して、すぐに描きたいなとは思っていたんです。でも魅力がバカでかすぎて、今の自分じゃ表現するのは難しいというか力不足をすごく感じました。レンタルが始まって観直して、今の自分なら描けるかなと思ったんですが、やっぱり難しくて、結局、まとまらないネームができあがったんです。

 それでも「いやもうこれでいっちゃえ!」と思って描いて投稿したら、その勢いだけのマンガが、あの『RRR』の常識に収まらないエネルギッシュさみたいなものと合わさって、意外とうまくいって。あれはあれで良い紹介になったのかなと思って、すごくお気に入りの紹介マンガではあります。

──『RRR』の勢いが再現されていて、また映画が観たくなりました。他にも思い入れのあるマンガがあればぜひ知りたいです。

大友:だいぶ初期のころに描いたマンガなんですけど、『リリーのすべて』。世界で初めて性別適合手術を受けた人の実話をもとにした映画なんですが、僕の考え方がまだ稚拙だった部分もあって「マンガってポップで面白い方が良いし、その方が難しい映画も観てくれる人が多いかな」と考えていたんです。

 でも『リリーのすべて』はテーマが繊細なものなので、紹介マンガを読んだ人のコメントで「こんなんじゃない」というものがあったんです。それを読んだときに「本当にその通りだな」とすごく食らって。映画の雰囲気や佇まいをしっかり表現していくべきなんだなって感じて、それから繊細なものは繊細に、ホラーはちゃんと怖く描くようにしています。その1個のコメントが印象的で、『リリーのすべて』にも思い入れがありますね。

──大友さんのホラー映画の紹介マンガはポップなのに怖いです……! 映画の佇まいを表現できたという作品はありますか?

大友:『Mr.ノーバディ』ですかね。うだつが上がらない、ちょっとダメな冴えないお父さんが、実はめっちゃ強かったっていう映画です。主人公が爆発したときの暴力性みたいなものがマンガで表現できて、描いているときもめちゃくちゃ楽しかったので、あれも好きな紹介マンガですね。

──最後のキレる表情は鬼気迫ってます! 映画紹介マンガを通して実現したいことは?

大友:やっぱり一番は、僕の映画紹介マンガを読んでくれて、気になった映画を実際に観てもらえるのが一番嬉しいことではありますね。

 あとは映画紹介マンガが形として残ると嬉しいですよね。いくつかの出版社さんから出版のお声掛けをいただいて、すごく嬉しいのですが、なかなかうまく話が進まないところもあって。Xだと投稿が流れていく感覚なので、ストックできるところがほしいなと。最近自分で「大友しゅうまの映画紹介マンガ」を作って過去作を一覧化したんですが、やっぱりいつかは本にしたいですね。

文=Minto編集部 石島英里

大友しゅうま

漫画家。映画紹介マンガシリーズをSNSに連載中。著書に『ゴリラ女子高生』(集英社)。

X:@ranpan21
Instagram:@otomo_shuma

<第12回に続く>

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