オー・ヘンリー『賢者の贈り物』あらすじ紹介。互いを思うあまりすれ違うカップル。宝物以上に大切な物とは…?

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/20

 『賢者の贈り物』という小説をご存じでしょうか。短編小説や、それより短い掌編小説を得意とするアメリカの作家オー・ヘンリーの代表作のひとつとして有名です。家族や恋人、友人などにプレゼントをするとき、最も大切なものは何かを教えてくれる小説といえます。

 本稿では『賢者の贈り物』について、作品の解説と登場人物、あらすじをご紹介します。

賢者の贈り物

『賢者の贈り物』の作品解説

『賢者の贈り物』はアメリカの小説家であるオー・ヘンリーが、1905年に発表した短編小説であり、彼の代表作として知られる作品です。新約聖書のエピソードを下敷きにして書かれた作品で、クリスマス劇の演目として人気が高い作品です。

 夫婦が互いにプレゼントを贈る際に起こした行き違いを描いており、とても心温まる結末になっています。

『賢者の贈り物』の主な登場人物

ジェームズ・ディリンガム・ヤング(ジム):貧しい生活を送る男。祖父から父、そしてジムへと受け継がれた金時計を持っている。

ジェームズ・ディリンガム・ヤング夫人(デラ):ジムの妻。美しく長い髪が自慢。

『賢者の贈り物』のあらすじ​​

 アメリカに、ジェームズ・ディリンガム・ヤング夫妻という貧しい夫婦が住んでいた。収入は月に20ドル。クリスマスが間近に迫っているのに1ドル87セントしか残っていなかった。この少ないお金を元手に、なんとかお互いにプレゼントを買えないものか、と夫婦は考えていた。

 夫のジムは祖父から父へ、そして父からジムへと受け継がれた金時計を持っていた。また、妻のデラの長い髪の毛はとても美しく、それらは夫妻の「誇るべき2つのもの」であった。しかし、クリスマスプレゼントを買うお金をつくるために、ジムは金時計を質屋へ、デラは美しい髪の毛をマダム・ソフロニーという髪の毛を買い取る商人に売り渡してしまった。

 誇るべきものを売って手に入れたお金で、ジムはデラが欲しがっていた鼈甲(べっこう)のくしを、デラはジムの金時計につけるプラチナの鎖を買った。しかしプレゼントしたときにはジムの時計はなく、デラにはくしで留めるだけの髪の毛がなかったので、お互いのプレゼントは無駄なものになってしまった。

「ねえデラ。僕たちのクリスマスプレゼントは、しばらくの間、どこかにしまっておくことにしようよ」と、ジムは言った。ふたりは、お互いの「思いやり」をプレゼントにすることにしたのである。

 ふたりは自分の家で最も大切な宝物ふたつを、最もばかげた方向で互いのために台無しにしてしまった。愚かにも見えるこの行き違いだが、贈り物をするあらゆる人々のなかで最も賢明だった。このふたりこそ、本当の賢者と言えるだろう。

<第90回に続く>

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