魯迅『阿Q正伝』あらすじ紹介。無知は罪なのか? 冤罪で処刑されるも、嘲笑われる主人公の悲惨なラスト

文芸・カルチャー

公開日:2023/11/26

阿Q正伝』は中国の作家・魯迅が強いメッセージを込めて書いた名作小説です。無知という罪を問いかける内容は、現代にも通ずる部分がたくさんあると思います。本稿では魯迅の阿Q正伝について、あらすじを中心に解説します。無知な阿Qが遂げる非業のラスト。ぜひ手に取って読んでみてください。

阿Q正伝

『阿Q正伝』の作品解説

 本作は中国の作家・魯迅による中編小説です。日本に留学して医学を専攻していた著者ですが、日露戦争時の自国の人びとの屈辱的な姿を目の当たりにして、文学による啓蒙に努めることを決心したといわれています。阿Qを反面教師に、大衆に「目覚めよ」と訴えかけました。

『阿Q正伝』の主な登場人物

阿Q:日雇い仕事でやっとのことで暮らしている。村民に侮蔑されて生きている。

趙(チャオ):阿Qが住む村の名士

『阿Q正伝』のあらすじ​​

 中国が清王朝から中華民国へと移行した辛亥革命の時代を背景に、正確な名前すらわからない凡庸以下の人間「阿Q」の伝記という形で物語は進行する。

 日雇いで暮らす阿Qは人一倍高いプライドを持っていたが、金にも家にも女にも縁がなく、読み書きもできない。さらに、容姿も不細工なうえ禿げていることもあり、村人から見下されヒエラルキーの最下層にいた。また、喧嘩も弱いため、殴られたり罵倒されたりといった、酷い目に遭わされることも阿Qにとっては日常茶飯事。しかし彼は「精神勝利法」なる、心の中で逆に相手を見下すといった卑屈な思考法を用いることで、現実から目をそらし、精神の平衡を保っていた。

 あるとき、いつものように喧嘩で打ち負かされた阿Qは、憂さ晴らしに若い尼の頬をつねったことをきっかけに、女性の感触が忘れられなくなり、村の名士である趙(チャオ)の女中に劣情を催す。女中に言い寄る阿Qであったが、逃げられたうえに趙の怒りを買い、村八分にされ仕事も失ってしまう。

 阿Qが住む村にも革命の足音が聞こえ始めたのはその頃であった。村民が怯えるのを見て、阿Qは革命に参加すれば皆を脅かすことができると考え「革命! 革命!」と騒ぎながら村中を駆け回る。しかし、革命が何を意味するかもわからぬ阿Qは、髪型だけを真似て革命党に入った気分になったにすぎなかった。もちろん、本当の革命党は阿Qのことなど相手にしない。それどころか、革命を叫び回っていた阿Qは、革命党のゴロツキによる趙家略奪の嫌疑をかけられ逮捕されてしまう。

 取り調べで、正直に話せば解放すると告げられる阿Q。しかし、あまりの無知さから、自分が捕まった理由もわからないうえに、革命党とは無関係であることも説明できない。最終的に阿Qは、渡された書類に署名をするよう命令される。それは革命党であることを認める旨の書類であったが、阿Qは読み書きができない。結局、言われるがままに何が書かれているかわからない書類に丸を書かされ、街を引き廻された後、処刑場へと連行されてしまう。そこで、ようやく死を悟るが時すでに遅し。阿Qの身体は銃弾で蜂の巣にされていた。

 群衆は、誰ひとりとして阿Qが冤罪であるとは思わなかった。それどころか、引き廻されている間に唄のひと節もうたえなかったことを笑い、さらに銃殺では斬首ほど見応えがないと漏らす始末であった。

<第97回に続く>

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