TikTok200万回再生!アート×ビジネスの世界に切り込んだ話題作『いつか死ぬなら絵を売ってから』【今月のバズったマンガ】

マンガ

更新日:2024/1/16

 今どき面白いマンガはSNSにあり! ということで、本連載ではSNSで話題になった面白いマンガをピックアップし紹介していきます。

提供:Minto編集部

「きっと君はほっといたって絵を描くんだからどうせなら金にしよう」

 TikTokで200万再生を超えた話題作『いつか死ぬなら絵を売ってから』(ぱらり/秋田書店)。宝島社「このマンガがすごい!2024」オンナ編では18位にランクイン。「Google Play ベスト オブ 2023」の「ベストヒューマンドラママンガ」にも選ばれ、12月14日に第2巻が発売されさらに注目を集めている。

いつか死ぬなら絵を売ってから

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 インターネットで誰でも絵を発表できる時代。NFTアートが話題を呼ぶ中で、ビジネスとしてのアートが広がりをみせている。ふたりの青年の交流を通して、アートがどのようにして価値をつけられるのか、アート×マネーの世界に切り込んだ作品である本作を紹介する。

窓越しに出会ったふたりの青年

 主人公の一希の仕事は清掃員。ネカフェ暮らしで住む家もない。児童養護施設で育った一希にとって、家も、食事も、家族も、大抵のものは窓の向こうにあって手に入らない。自分はそれを窓の外から眺めているだけの存在なのだと思いながら生きる一希。ネカフェには窓もなく、人生の希望もないと感じているようで、欲しいものを諦め続けてきた一希の悲哀が感じられる。

いつか死ぬなら絵を売ってから

いつか死ぬなら絵を売ってから

 そんな彼の唯一の趣味は絵を描くこと。仕事の休憩中に絵を描いていると怪しい青年が窓越しに覗き込んでくる。

いつか死ぬなら絵を売ってから

いつか死ぬなら絵を売ってから

 窓の向こうのものが手に入らないと独白する一希の前に、窓越しに現れた怪しい青年。青年との出会いが彼の運命を変えていく。

アートのためならお金を惜しまない 怪しい青年・透

 一希がビルの清掃の休憩中に絵を描いていると、透と名乗る青年と出会う。この青年こそが、窓越しに絵を覗き込んできた人物であり、一希を趣味からビジネスとしてのアートの世界に巻き込んでいくキーパーソンだ。

いつか死ぬなら絵を売ってから

いつか死ぬなら絵を売ってから

 絵を見たいと頼まれてスケッチブックを渡すと、突然絵を買いたいと札束を差し出す透。からかわれていると思った一希からは突き返されてしまったが、このシーンからは価値があると思ったアートには金を惜しまない透の姿勢が伝わってくる。

いつか死ぬなら絵を売ってから

いつか死ぬなら絵を売ってから

 その翌日、一希に拒絶された透だが清掃会社経由で一希を無理矢理家に招く。アートのことになると強引に人に迫る透に一希は裏があるのではないかと疑うが、そんなことはお構いなしに「君の絵が気に入ったから」と笑顔を崩さない透。

いつか死ぬなら絵を売ってから

いつか死ぬなら絵を売ってから

 そんな透に不信感を持ち、帰ろうとする一希だが、透は自宅に飾っている絵を描いた画家の話をする。

いつか死ぬなら絵を売ってから

 経済的な問題で作家活動が続けられなくなったその画家は、ある時パトロンに見出されたことをきっかけに、作品が国内外で流通するようになり、美術史的価値と市場的価値が生まれたという。君ならそれと同じくらい稼げると、透は話すが、一希には信じられない。

いつか死ぬなら絵を売ってから

 その後、透は一希の目の前で、一希の絵を客人に売りつける。詐欺みたいな嘘をつくなと憤る一希に、透は自分は本気だと告げるのだ。先ほどの作家の経歴で最も重要だったのは、ある時パトロンに見出されたこと。自分が一希のパトロンになるから、絵を金に換えるため協力関係を結ぼうと提案する。

いつか死ぬなら絵を売ってから

いつか死ぬなら絵を売ってから

 家も豪邸で何不自由なく育った、一希と真逆の存在である。ギリギリの生活だったがゆえに、人を信用できない一希は、その生い立ちだからこその目線で世界を切り取る。豊かであるが故におおらかさをもつ透は、アート以外の世界には無関心で時にデリカシーが欠如している面もある。

いつか死ぬなら絵を売ってから

 本作は、一希が透というパトロンに見出された話であり、一希が透によって人生を変えられたように見える。しかし同時に、透にとってもこれまで彼が触れてこなかった価値観に触れることとなり、透の人間的成長も物語の鍵になるのではと筆者は感じている。

どうせ絵を描くなら金にしたい

 透からの言葉を反芻した一希は、描かずにはいられない自分を自覚し、今まで諦めてきた窓の向こうにあるものを手に入れることを決意。透に電話し、手を組むことを告げる。

いつか死ぬなら絵を売ってから

 その絵の価値は、「誰に見出されるか」によって決まってしまう。見出された時に、そのチャンスを自分のものにできるかが、人生の分岐点になるのだろう。

あの絵の価値は一億二千万円

 透の家で見た絵と同じだけ稼ぎたいと言う一希に。透は、「あの絵の値段は一億二千万円」とさらりと告げる。透は、一希の絵も同じように稼げると疑っていないのだ。

いつか死ぬなら絵を売ってから

 精神的にも金銭的にもギリギリで生きている一希と、お金持ちで不自由なく生きてきた透は、生き方も価値観も真逆。到底手を組めそうにないふたりだ。ふたりの共通点はアートへの強い感情だろう。アートの世界を楽しみながら、ふたりの青年の行く末に注目したい。

文=Minto編集部 橘田優里

ぱらりさん

ぱらり

漫画家。
『いつか死ぬなら絵を売ってから』月刊ミステリーボニータ(秋田書店)にて連載中。
著書に『ムギとペス〜モンスターズダイアリー〜』(KADOKAWA)、『ねこにんげん』(リブレ)、『スーパーヒロインボーイ』(実業之日本社)がある。
X(旧Twitter):@parari000manga(https://twitter.com/parari000manga

<第9回に続く>

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