紫式部『源氏物語 十三帖 明石』あらすじ紹介。源氏復活のカギ、ラッキーガール・明石の君のサクセスストーリーが始まる

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公開日:2024/3/28

源氏物語』は平安時代に紫式部によって執筆された古典文学の名作です。教科書で一部を読んだことのある、主人公の名前は知っているという人も多いかもしれません。詳しい内容を知りたい、全体を読み通してみたいという方のために1章ずつあらすじをまとめました。今回は、第13章「明石」の解説とあらすじをご紹介します。

源氏物語 須磨

『源氏物語 明石』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

 前章「須磨」に引き続き、都から離れた土地での日々が描かれる「明石」ですが、それまでの侘しい生活とは違い、趣のある屋敷で風流な暮らしが始まります。その上、明石の君という新しい恋人もできて、一時は落ち着いていたプレイボーイの浮気心も再燃します。色恋沙汰に身を任せる悪い癖だと自身も周囲も呆れるものの、実は明石の君とは行きずりの恋にはならず、深い関係になっていくのです。あまり身分の高くない明石の君が、源氏の人生最悪期を脱するきっかけとなるサクセスストーリーに、作者紫式部の思いが重なるように感じます。

これまでのあらすじ

 桐壺帝の子として生まれながら、政敵である右大臣家の圧迫により、都を離れることになった源氏。須磨の地で寂しい暮らしをしながら、密かに慕い続けている藤壺や、最愛の妻である紫の上、朝廷を追われる要因となった朧月夜との文通が慰めになっていた。

 須磨での暮らしが1年経つ頃、禊のために海辺を訪れる源氏と従者たちであったが、穏やかだった海が突如荒れ始める。明け方、源氏は人とも神とも見分けのつかない不気味な様相の者の夢を見た。

『源氏物語 明石』の主な登場人物

c光源氏:27~28歳。須磨での暮らしが1年経過した頃、夢のお告げにより明石へと移る。

紫の上:19~20歳。源氏の妻。須磨に移った源氏と離れて都に残る。

明石入道:明石の君の父親。娘が貴族と結婚することを悲願とし、娘を源氏に引き合わせる。

明石の君:18~19歳。父親の計らいにより、源氏と恋仲になる。

『源氏物語 明石』のあらすじ​​

 禊の日からの悪天候が何日も続き、紫の上からの使者により都でも雨が続いていることを知る。遂に落雷により源氏の屋敷の一部が燃える事態となり、源氏の見た不気味な悪夢も繰り返されていた。わずかに雨が弱まり源氏がまどろんでいると、夢に亡き父帝が現れ、神が導くままに舟で須磨を去るように告げる。

 夜が明けると、ある男(明石入道)が舟で源氏を訪ねてきた。この荒波の中どうやって舟を出したのかと不思議に思い尋ねると、13日に雨風がやむのでそこで舟を出すように夢でお告げがあったと言う。源氏と入道の夢が示した通りとなり、源氏はそのまま入道の舟に乗り、須磨を離れ明石へと向かった。

 入道の住まいは、都の高貴な邸にも見劣りせず、優美で風情のある造りであった。入道とその妻は源氏を厚くもてなし、源氏は心穏やかな日々を送っていた。源氏が明石での生活に慣れ始めたころ、入道は以前からの悲願であった娘の縁談話を持ち出す。うわさに聞いていた娘に関心を持ち始めた源氏に対し、肝心の娘はあまりの身分の違いに戸惑っていたが、文通を始め徐々に打ち解けていった。そして、8月の月の美しい夜に遂にふたりは結ばれる。美しく品のある娘の雰囲気に魅入られ時々逢瀬を重ねるようになったが、紫の上への真心から次第に源氏の足は遠のいていった。

 同じ頃、都では不思議な出来事が多くあり、朱雀帝の夢には故桐壺院が現れ、源氏の処遇について戒めた。その夢の影響か朱雀帝は眼病を患うようになり、年が明ける頃には、状態は益々悪くなり、母である弘徽殿太后も物の怪に悩むようになっていた。政局にも波乱が続いたことから、帝は源氏を都に呼び戻すことを決める。帝の許しを喜ぶ源氏だが、その頃には明石の君(入道の娘)のもとへ一晩も欠かさず通うようになり、また懐妊も判明していたため別れの寂しさも大きかった。必ず明石の君を呼び寄せると心に決め、形見の琴と着物を渡し、源氏は都へと帰っていった。

 都に戻った源氏は、昇進し政界へと復帰した。紫の上との再会を喜ぶ一方で、残してきた明石の君への思いも募る源氏だった。

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