紫式部『源氏物語 十二帖 須磨』あらすじ紹介。源氏の運命を変える“須磨退居”。都を離れる決断は吉と出るのか、凶と出るのか

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/27

源氏物語』は平安時代に書かれた古典文学の名作として多くの人に知られています。教科書で一部を読んだことのある人も多いかもしれません。詳しい内容を知りたい、全体を読み通してみたいという方のために1章ずつあらすじをまとめました。今回は、第12章「須磨」の解説とあらすじをご紹介します。

源氏物語 須磨

『源氏物語 須磨』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

「須磨」で、源氏は都を離れ、憂愁の日々を過ごします。都で様々な女性と恋愛をしながら、出世コースを着実に進み、華やかな宮廷文化に親しんだ日々は一変し、須磨の地では新たな女性との恋もなく、朝廷の職務を解かれ、過去を思い出しながら侘しい生活を送っている様子が描かれますが、実はこの後、源氏の人生は更に大きく変転します。次なるステージに向けての助走期間のような須磨での日々が、今後どのように影響するのか注目です。

これまでのあらすじ

 正妻・葵の上が亡くなり、愛人・六条御息所や、藤壺も源氏のもとを離れていった。政治情勢が政敵である右大臣側に移る中、以前から関係を持っていた右大臣の娘・朧月夜との不倫が露呈する。朧月夜は朱雀帝の寵愛を受けている女性でもあり、源氏のことをよく思わない弘徽殿女御(朱雀帝の母)の妹であった。世間からの非難は免れず、何らかの咎めを受けるだろうと覚悟をする源氏は、過去に関係のあった花散里のもとを訪ねた。ひっそりと暮らす彼女の屋敷で、ふたりはお互いの気持ちを確かめ合って過ごした。

『源氏物語 須磨』の主な登場人物

光源氏:26~27歳。朧月夜との関係が明るみになり、窮地に立たされる。

藤壺:31~32歳。源氏との不義の子を産む。帝が崩御し出家。春宮(皇太子、つまり次の帝)の後見人として源氏を頼る。

紫の上:18~19歳。源氏の妻。須磨に移った源氏と離れて都に残る。

『源氏物語 須磨』のあらすじ​​

 政敵である右大臣家の圧迫がいよいよ強まり、これ以上情勢が悪くなる前にと、源氏は須磨への退居を自ら決意した。人里離れた寂しい海辺の住まいの様子を思うと、心乱れる源氏だった。密かに別れを告げるため、左大臣、藤壺、紫の上、花散里、朧月夜といった近しい人々のもとへ忍んで出向き、別れを惜しんだ。数人の従者を伴って、須磨へと旅立った。

 須磨は、都の華やかな生活とは打って変わって、侘しい住まいであった。都に残した恋人たちとの文通が心の慰めとなった。恋しく思いながらしたためた源氏の手紙に対し、ここ数年人目を憚って源氏を冷たくあしらっていた藤壺からも情のこもった返書が届き、朧月夜や紫の上、六条御息所からも便りが届いた。最愛の妻・紫の上のことを思うと耐え難く、いっそのこと須磨に迎えることも頭をよぎるが、この侘しい住まいに連れてくる方が悩みの種となるだろうと諦めた。紫の上もまた、源氏の残していった琴や着物を形見のようにそばに置き、思い焦がれて暮らした。朧月夜は、帝の寵愛を受けながらも、源氏のことを忘れられずにいた。

 源氏が須磨に移ったことを知り、明石入道は娘を源氏の結婚相手に差し出したいと考えていたが、入道の妻は、いかに源氏が素晴らしい人物だとしても、罪に当たって流された人を選ぶことはないと反論した。明石入道は、源氏の実の母である桐壺の更衣のいとこであり、気位の高い人物で、その娘・明石の君もまた、知恵と気品のある娘であった。

 須磨に移り住んで1年が経つ翌年2月に、弘徽殿女御の目をかいくぐり、親友の頭中将が源氏を訪ねてきた。

 3月、禊のために海辺に出かけると、当初穏やかだった海が突如荒れ始め、空が暗くなり、雷鳴と共に暴風雨が吹き荒れ、突然のことに人々は困惑した。明け方、少し休んでいた源氏は何者か知れぬ者の不気味な夢を見た。

<第13回に続く>

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