第7回「一週間マクドナルドを食べ続けて悪夢を見る　前編」／酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない⑦

気持ちのいい夜風が、手に握りしめているマクドナルドの紙袋の独特な香りを運んでくる。
そっと深呼吸するたびに、甘えたような声でお腹が鳴る。

私がぱっと思いつく一番好きな食べ物はマクドナルドのビッグマックだ。

大人になって、どんなに絶品といわれる料理を食べても、予約がとれないお店に行ってもビッグマックを超えることができない。

いつからか、ビッグマックは他の食べ物とは比較できない神のような存在になっていた。
天空の花嫁になっていたのだ。

夜空に煌めく星たちは、これからの晩酌を明るく照らしてくれている。
心地のいい夜風は早く冷めないうちにお帰りと背中を押してくれる。

日曜日の夜は好きなものを食べると決めている。

私は店内でそのまますぐに食べるより、家に持ち帰って食べたい派。
台所に並べてあるウイスキーを今日の気分に合わせて選び、持ち帰ったコーラに混ぜてコークハイの完成。
しゅわしゅわと強めの炭酸が喉を刺激し、生きていると強く実感できる。
この瞬間を味わえるのは、テイクアウトの特権だ。

完全無欠のビッグマック

バーガーを最高な状態で食べるには、サイドメニューの存在も欠かせない。

前菜にはポテトとナゲットを。もちろんソースはおつまみに早変わりさせてくれるマスタード一択。
紙袋に取り残されてしまったポテトも大切に胃袋にしまい込む。

三分の一ほど食べてごくごくとコークハイで喉を潤したあとに、主役は遅れて登場する。

夜に欲張ってビッグマックのパティをダブルに変更したことがあるが、何かが違った。
もうこれだけで完成されているので余計なものは足してはいけない。

ソースや肉やチーズが多ければもっと美味しくなると考えてしまうが、全てのバランスを調整され尽くした上でのこの姿なのだ。
これ以上のことはしてはいけない。

ピクルスが刻まれ、ほんのり甘酸っぱさが残るビッグマックソース。
このソースが口に入った瞬間に人生って最高だと感じさせてくれる。

しかもマクドナルドのチーズって、チーズが一番美味しそうに見える色してるよね。

カルビなんかの脂っこい肉はあまり食べられなくなったけど、マクドナルドのパティだけはもう食べ切ってしまったのか…と驚くほど食べられてしまう。
少ししなびたレタスも、さりげなくシャキシャキ感を追加してくれるので咀嚼が楽しくなる。
もちろん、箱の隅っこでこぼれたレタスは貴重な野菜なので残さず食べる。

スーパーサイズ・ミ―

学生時代は、狂ったようにマクドナルドを食べていた。

初めての海外旅行に行った時も、初日からマクドナルドを食べていた。
友達と飲みに行こうなんて時は居酒屋よりも、マクドナルドを買って持ち帰り、家飲みしたほうが財布も心も幸せになれるのではといつも思っていた。
側から見たらジャンクフードばかり食べていたと思う。

同じ授業を受けていた友達が、私のことを心配して1本のドキュメンタリー映画をレンタルして貸してくれた。口いっぱいにポテトを突っ込んでいて、愉快なハンバーガーたちに囲まれたひとりの男性が何かを訴えている。

『スーパーサイズ・ミー』という作品で、マクドナルドを1日３食、３０日間食べ続けると体にどんな影響がでるのか？という検証を体を張って試す内容だ。

この映画を見ると、しばらくファストフードを食べるのはやめようかなという気持ちになるらしい。
いわゆる人生変わる系の映画なんだとか。

確かに、アメリカンサイズで毎日３食もマクドナルドを食べていたら、栄養不足にもなるし心にも影響が出てくるだろう。
自ら体を張った監督は、後半戦で体調を崩しドクターストップが出ていた。

一方、ビッグマック愛好家で1999年にビッグマックを一番多く食べた人物としてギネス世界記録に認定された男性も登場する。
死ぬまでビッグマックを食べ続けると謳っている男性は、現在70歳。これまで34,000個のビッグマックを完食しているそうだ。

平均すると毎日２個はビッグマックを食べている。
それでも血糖値もコレステロール値も問題なく健康に過ごしているんだとか。

ポテトなどサイドメニューを食べすぎなければ、ビッグマックを食べても多分大丈夫。
むしろ、この作品は、私のビッグマックに対する信頼をより一層強くしてくれた。