第4回「アルコール・ピルグリム」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない➃
公開日:2024/2/23
突然ですが、みなさんは夢の中で恋に落ちたことってありますか?
会ったことも見たこともないのに、好きになって午前中引きずってしまう。一目惚れのような現象。けど、午後にはすっかりどんな見た目だったかも忘れてその恋すらなかったことになって記憶から消えてしまう。
夢って本当に不思議だ。
家にしばらく引きこもってNetflix見ながらビール飲んでポテチつまんで、誰とも関わらない日最高だ〜って過ごしていても夢でコミュニケーション取らされるので困ったもんだ。
一方、私の最近見た映画『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』に登場する主人公スコット・ピルグリムは夢で見た女性・ラモーナに一目惚れして現実世界で特定して見つけ出すんだから本当にすごい。
夢を夢で終わらせない。恋に暴走できる彼が羨ましい。
しかし、主人公が夢で一目惚れした彼女にようやく辿り着き、結ばれる直前で問題が発生するのだ。
なんと彼女の7人の邪悪な元彼軍団から決闘を申し込まれ、彼らを倒さないと付き合えないという理不尽イベントに巻き込まれることに。みんなスケボーだったりヴィーガンだったりと能力を持っていて、急に昔のレトロゲームを彷彿とさせるバトルが展開され勝ち抜くことを余儀なくされるのだった。
最近ではアニメシリーズも展開され、そっちの世界線では一人目とのバトルに秒で負け主人公がコインとなって消えてしまい代わりに彼女であるラモーナが元カレ達との因縁に蹴りをつけて主人公を探し出す物語となっている。
好きな人のために、好きだった人のために命をかけて戦えるほど人を好きになるって本当にすごいことだと思う。
人生で一番愛した人って誰だったんだろう…作品に触発されて物思いに耽っていた時に真っ先に思い浮かんだのは酒彼氏ビールの顔だった。
こじらせてしまったせいか、私は愛するお酒のことを酒彼氏と呼んでいる。
冷蔵庫という距離はあるものの、ほぼ同棲に近い生活を送り夜はそっと唇を重ね、一緒にいると自然と気が楽になって楽しいなと思える存在。時には二日酔いとして喧嘩したり、依存しすぎると自分の身を滅ぼすことになる。
もうこれってれっきとした恋人じゃないですか。
今は頭痛やダイエットなど様々な試練を乗り越えてビールと将来を見据えたお付き合いをさせていただいているが、彼と出会うまでの7人の元カレ軍団がいたからこそ今があるとも思う。
彼らとの苦い恋の終わりを振り返ってみると、最初に思い浮かぶのは決まって鏡月だった。
一人目の酒彼氏
お酒を飲み慣れていない自分は、まだ唐揚げの美味しさはわかるけどビールの美味しさを理解することはできなかった。ビール多数派の中、「カシスオレンジで❤」と可愛く言えるわけもなくちまちまと苦い黄金色の液体を飲みながら、クラス交流の飲み会に参加していた。人見知りで話の輪に入れない自分にとってその時間は憂鬱極まりなかった。
そんなとき、水と間違えて偶然出会ってしまったのが鏡月だった。
アセロラのふんわりとした香りと甘さ、お酒特有の刺激が口の中に広がり飲んだ瞬間カッと喉が熱くなった。
まさに恋に落ちたような衝撃だ。
一体君は…と消極的な自分が勇気を振り絞って「彼は一体何者なんですか?」と先輩に問うと「鏡月だね、アセロラ味」と教えてくれた。
透き通ったエメラルドグリーンのガラス瓶に入った彼はどんな少女漫画に登場するイケメンよりも爽やかで、心地よくすーっと流れていく風のようだった。
まだ喉に微熱が残っている。
こんな出会いまたとない。
積極的になるなら今しかない。
話の輪にいつ入ろうということすら忘れて、彼と二人きりになり一本開けてしまった。
しかし運命だからといって欲張ると身を滅ぼすことになる。
彼は宝石のように透き通っていて美しいのに、私の体調はみるみるうちに濁っていった。手を伸ばせば伸ばすほど、深い吐き気の闇に落ちていく。
ああ、これが失恋なんだと思い知った。私には恋は向いていないのかもしれない。
二人目はココナッツ香るマリブな彼
二人目はマリブな彼だった。
当時大学の夏休み。暇を持て余した私は友人たちと桃鉄というサイコロを振って電車で日本全国の目的地を目指し、資産を増やしていくゲームで遊んでいた。そのマップの中に所持金が減る赤マスが多々あるのだが、そこに止まる以外は現実世界で酒を飲むという過酷なルールを設けていた。
家中の酒は瞬く間になくなり、最後に残っていたのが飲みかけのココナッツ香る「マリブ」というリキュールだった。
本来ならコーラやオレンジジュースで割るべきなのに、私たちはマリブの意思を裏切って味わうこともなくそのまま甘ったるい液体として飲み干した。すると次の日、立ち上がれないほどの胃痛に全員が襲われたのだった。二日酔いの次元を超えて、しっかり体調不良になっていた。
そういえばこのマリブな彼と出会ってから2年は経過していた。中途半端に愛して後はそのまま陽の当たる窓際に放置していたんだった。彼は他の酒彼氏を家に連れ込んでは、楽しげに話している私のことをずっと影から見ていたに違いない。
ちゃんと最後まで飲み切ってからお別れすべきだったのに。雑に扱った私への思いはいつの間にか愛から憎悪に変わっていたんだろう。
そこからは中途半端に自宅にリキュールな酒彼氏を連れ込むのはやめることにした。恋にもお酒にも賞味期限があるってことを学んだのを覚えている。
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