SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第35回「ルーズソックス」

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公開日:2024/5/27

 まだ五月だというのに、夏のような日がいく日か続いた。毎年夏に決まって思い出すことなのだが、今年は少し早めに思い出してしまったので、夏の盛りに書こうと思っていた思い出話を一つ。これはめくるめくキラキラした性欲の話だ。

 高校の最寄駅の改札を飛び出した私は、ゲートが開いた競走馬よろしく学校を目ざしてダッシュした。何がなんでも走らなければならない理由は二つあった。一つは絶対に遅刻を免れない時間であったこと、もう一つはこれから始まるのが体育の授業であったからだ。そう、私の大好きなプールだ。

 あまり知られていないが私は中学では水泳部に所属しており、五十メートル平泳ぎで新宿区六位という絶妙に自慢にならない成績を残している。前世は絶対に魚だと疑わない人が前世なんじゃないかくらいには泳ぐことが好きで、何がなんでも授業に参加したかった。

 学校までの道をひた走り、校門を潜った頃にはすっかり汗が滲んでいた。この調子で行けば五分遅れ程度で授業に参加できる。服の下には既に水着をはいていたから、脱衣するなりプールに飛び込める。さらに勢いを増して、私は走った。

 高校のプールは分館の屋上にあったので、本館で上履きに履き替えて、すぐに分館へ向かった。一つ飛ばしで階段を駆け上がる。もうまもなく更衣室に到着する。

 他所の学校の殆どは男女別の時間にプールの授業が行われているらしいが、我々の学校は男女同じ時間に授業が行われていた。なのでどんなに急いでも更衣室を間違えてはならない。

 キャー

 ごめん

 もう

 てへっ

 で済む歳ではない。急いでいるが故、細心の注意を払って胸の内で確認。階段を上りきった先を左に曲がってすぐの部屋、二つある更衣室の手前に位置するのが、我らが男子の更衣室だ。

 最後の一段を軽く飛ばして、上履きのそこをキュッと鳴らして左に曲がった。

「おっ」

 うっかり私から声が出たのは、思いがけずそこに人の姿を発見したからだ。それは見たことはあるが名前は知らない他のクラスの男子生徒だった。あれ、誰だっけ、とは思わなかった。正確には思えなかった。それは遅刻しちゃうとか、早くプールに飛び込みたいとか、そういう私の心理とはまったく関係がなく、目の前の景色に対して、私が動揺したからである。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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