SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第33回「お墓参り」

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公開日:2024/3/27

 人は忘れられた時が本当の死だ、と耳にしたことがある。正直な話、何言ってんだ、と思ってる。抱きしめられなきゃ、笑っている顔が見えなきゃ、頑張っている姿を見てもらえなきゃ意味ないんだよ、と。ただ私の心の深いところにうっかり届いてしまったのは、どことなく腑に落ちた部分があったからなのだろう。

 誰かが忘れさえしなければ、「生きてないけど、死んでない」みたいな。

 

 高校の時に仲の良かった友達がいた。

 いる、ではなく、いた。

 余計なお世話かもしれないが奴のことを定期的に思い出すようにしている。他に思い出してくれる人なんてたくさんいるから、奴は死なないんだけど、それでも。

 

 あ、ちなみにここで書きたいのはずっしりくる話じゃない。生と死にまつわることなんかじゃ断じてない。ただの面白い話だ。自分で面白い話って言ってる人の話って往々にしてつまらないんだけど、多分大丈夫。生きる意味なんて正直わからない。でも「面白い」に勝ることってこの世にあるのかしら。面白いことくらいは、ずっと覚えていたい。

          *

 Uが死んで、二年経った。冬の空を横切る鳥が一羽。それをなんとなく目で追って「もう二年か」と胸の内で呟いた。そんな感傷的なタイミングで震え出した携帯電話のディスプレイには藤田と名前が表示されていた。

「もしもし」

「渋谷、今大丈夫?」

「ん、大丈夫だけど」

「来週末、予定空いてる?」

 藤田は高校のクラスメイトであり、仲の良い友達だ。卒業してからも、というか卒業してからの方が会う頻度が高くなった稀有な男。私は鞄からスケジュール帳を取り出した。

「日曜日なら。なんで」

「Uの墓参り行こうぜ」

 実はまだ、お墓に入ったUに一度も手を合わせられていなかったのだ。私は即座に、もちろん、と返事をした。

「ちなみに藤田場所わかるの?」

「教えてもらった。xx駅が一番近いみたい」

「そしたら駅待ち合わせにしようか。色々ありがと」

「それじゃ来週」

 電話を切った。なんとなく、携帯電話に保存されている、藤田と私とUの三人でよみうりランドのプールに行った時の写真を見返した。高校三年生の夏。まだ五年も経っていないのにずいぶん昔のことのように感じられた。

 

 墓参り当日。電車を乗り継いでxx駅に到着すると、既に藤田は私を待っていた。

「花これで良いかな」

 藤田は手に持った花を私に見せた。

「うん、良いんじゃないかな。喜ぶと思う」

「あいつが花で喜ぶかな」

「花でもあいつは喜ぶんじゃない?」

 事前に場所を調べてくれていた藤田に先導してもらう形で、早速Uのお墓のある墓地を目指した。藤田と会うのは別段久しぶりでもなかったのだが、どういうわけだかものすごく久しく感じた。こんな形でも三人の時間になっているのだろうか、だとしたら少し嬉しい。そんなことを思いながらも、いつも通り取り留めのない世間話をしながら歩く。しかし、墓地に到着するなり絶句することになった。想定外の景色を前にして眉間に皺を寄せる藤田に、私は言った。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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