世界の専業主婦と働く女性の幸福度を比較! 日本の順位は…/『2億円と専業主婦』⑥

マネー

公開日:2020/2/9

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『2億円と専業主婦』(橘玲/マガジンハウス)

◉働く女性の幸福度が高い国、専業主婦の幸福度が高い国

 では次に、『貧困専業主婦』からもうひとつ興味深いデータを紹介しましょう。

「第6回世界価値観調査(2010~2014)」は、世界59カ国の国と地域の国民幸福度を「とても幸せ」「まあ幸せ」「あまり幸せでない」「まったく幸せでない」の4択で調べています。90ページの図は、このデータから周さんが、65歳未満の既婚女性のうち、無業(専業主婦)と有業(共働き)の「とても幸せ」と回答した割合の差を国別にランキングしたものです。

 パキスタンは、「とても幸せ」とこたえた専業主婦が41.7%に対し共働きは85.7%で、その「格差」は44%と圧倒的に共働きの幸福度が高い国です。こうした「働く女性の幸福度が高い国」は59カ国中24カ国(約4割)あります。

 その一方でニュージーランドは、「とても幸せ」な専業主婦の割合が55.4%なのに対し共働きは38.7%で、その格差は16.7%と専業主婦の方が幸福度が高くなっています。こうした「専業主婦の幸福度が高い国」は59カ国中35カ国(約6割)です。

 日本(格差13.8%)はそのニュージーランドに次いで「専業主婦の幸福度が高い国」ですが、「#MeToo」運動発祥の地で共働きが当然とされるアメリカも19位(格差5.1%)ですから、世界的にも「専業主婦は幸せ」という傾向があることがわかります。

◉働く女性の幸福度が低いのでは?

 このリストを見ると、専業主婦か共働きかを問わず、「幸福格差」の大きな国には(相対的に貧しい)新興国が多いことがわかります。「働く女性の幸福度が高い国」では社会的・文化的に女性の就労が認められているので、「働けるだけ幸せ」と思うのでしょう。それに対して「専業主婦の幸福度が高い国」には性役割分業を伝統とする国が多く、「子どもがいるのに働くのはかわいそう(あるいは道徳的にまちがっている)」と見なされるのではないでしょうか。

 そのなかでは、「働く女性の幸福度が高い国」の上位に先進国のオランダとスペインが入っているのが目につきます。

 男女の社会的な性差を示すジェンダーギャップ指数(2018年)で、日本は110位と相変わらず世界の最底辺です。これは経済、教育、政治、健康の4分野で男女の格差を調べたもので、日本は教育(65位)と健康(41位)の順位は比較的高いものの、経済分野(117位)と政治(125位)への女性の参画が遅れていることで、先進国のなかではもっとも「男女差別が大きな国」となっています。それに対してオランダは27位、スペインは29位と順位はかなり上です。──この指標は教育や健康などの質ではなく「(男女の)格差」を評価したものなので、アジアのトップがフィリピンの8位であるように、新興国の方が高く出る傾向があります。

 ここから、日本の場合、「専業主婦の幸福度が高いというよりも、働く女性の幸福度が低いのではないか」との推測が成り立ちます。幸福感は相対的なものなので、ジェンダーギャップが大きいと、「(子育てしながら働く女性に不寛容な職場で)イヤな思いをしながら働くよりマシ」という理由で、専業主婦の幸福度が高くなるのかもしれません。

 このように考えると、「好きで専業主婦をやってるわけじゃない」という「炎上」の背景がわかります。日本の専業主婦は、家計の所得を増やしたいと思ってはいるものの、夫の無理解や非協力、子育て中の女性に冷たい職場、家事・育児を完璧にこなさなければならないという世間の圧力などによって、働きたくても働けないのではないでしょうか。

 ただしこの仮説は、ジェンダーギャップの少ない(男女差別のない)アイスランド(1位)、ノルウェー(2位)、スウェーデン(3位)、フィンランド(4位)など北欧の国が「働く女性の幸福度が高い国」のベスト10に入っていなかったり、ジェンダーギャップ指数7位と、日本はもちろんオランダやスペインよりもはるかに男女差別のないニュージーランドが「専業主婦の幸福度がもっとも高い国」になっていることから、一般的な法則とはいえません。ジェンダーギャップがあってもなくても、多くの女性は「子どもと一緒にいることが幸せ」と考えるのかもしれません。

 その一方で、約4割の国で、働く女性の方が幸福度が高いのも事実です。幸福かどうかは、社会的・文化的な要素に大きく左右されるのです。だとすれば、「共働きと専業主婦のどちらが幸福か」という実りのない議論をするより、「働く女性の幸福度が高い社会」を目指した方がずっといいのではないでしょうか。

 なおこの調査では、「貧困専業主婦」の4人に1人は「子育てに専念したい」からではなく、「健康上の理由」や「家庭内の問題」「家族の介護」を働いていない理由にあげており、21%が「今すぐ働きたい」とこたえています。不本意ながらも専業主婦をつづけている貧困層のうち、4割が「抑うつ傾向あり」と判定されてもいます。

「行き過ぎた体罰」や「育児放棄」など虐待行為をしたことのある割合が、貧困専業主婦は9.7%で、それ以外の主婦より約4割も多く、育児放棄は2倍以上の差があります。子どもの健康状態が「おおむね良好」である割合も低く、子どもの6人に1人に病気があるとされます。「親が家にいるほうが子どものためになる」という客観的な証拠はどこにもないのです(朝日新聞2019年10月10日「「貧困専業主婦の」のワナ」周燕飛インタビュー)。

 こうしたデータを見ると、専業主婦をとりまく状況は複雑で、「幸せなんだから放っておけばいい」とは一概にいえないことがわかります。

<第7回に続く>