【宇垣美里・愛しのショコラ】ウィスキーボンボンは魅力的な悪女への一歩/第7回

小説・エッセイ

更新日:2020/8/12

 色とりどりの銀紙で包まれた一粒一粒が目に麗しい。子どもの頃欲しくて欲しくてたまらなかった、美少女戦士や魔女っ子の持つ銀メッキの変身チャームみたい。うやうやしくはがすと現れるそれは、ちょっと力を入れると割れてしまいそうなほど繊細で、指の熱で溶けるのが怖くてそそくさと口に運ぶ。ぱりん。じゅわっ。ふわっ。ああ、恍惚としてしまう。

宇垣美里・愛しのショコラ

 食べれば食べるほどに、喉が心臓が、手先が足先が温まってゆく。むせ返るようなウイスキーの香りを口の中に漂わせれば、ぐつぐつと脳と血潮が沸騰してゆくのを感じる。満開の桜に酔いしれた春の花見帰りにも、効かせすぎたクーラーで頭がぼんやりとしてしまうような夏の日にも、枯葉を吹き上げる乾燥した秋の風にも、芯から冷えるような凍える冬の日にも、ウイスキーボンボンはよく似合う。だって、酒は季節をいとわない。楽しい気持ちは倍に、悲しい気持ちは半分に。美しい景色はより鮮やかに。辛い記憶はなかったことにすらしてくれる。結局どんな薬よりもチョコレートと少しのお酒が何よりも私を幸せにしてくれるのだ。

 寝る前に少しだけ、こっそり食べるのが好きだ。普通にお酒を飲むよりもずっと、心を軽やかにしてくれるのは何故なんだろう。一日の疲れがどろりと溶け出てゆくのを感じる。いい子ちゃんのようにホットミルクを飲みながら、パジャマのボタンを上までしっかり閉じて、こっそりウイスキーボンボンを口に含む。なーんて、なんだか不良みたいだ。このそこはかとない背徳感もまた醍醐味の一つ。ああ、ワルイコトするときの気分って最高。根が不良。でもそんな自分が嫌いじゃない。「いい子は天国へ行ける、けれど悪い子はどこにだって行ける。」メイ・ウエストのこの言葉が大好き。そんな私にとって、ウイスキーボンボンは魅力的な悪い子になるための、一番簡単なトリガーなんです。

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【筆者プロフィール】
宇垣美里(うがき・みさと)
兵庫県出身。2019年3月にTBSテレビを退社し、4月からフリーのアナウンサーとして活躍中。チョコレートのほか、無類の旅好き、コスメ好きとしても知られる。週刊誌、WEBサイトでコラムやエッセイなど多数連載中。19年にはファーストフォトエッセイ「風をたべる」を刊行。

撮影=中村和孝(まきうらオフィス)/ヘアメイク=AYA(LA DONNA)/スタイリスト=小川未久(宇垣さん衣装)、片野坂圭子(雑貨)/編集協力=千葉由知(ribelo visualworks)

衣装協力=ココシュニック(アクセサリー/https://store.world.co.jp/s/brand/cocoshnik/)、その他、スタイリスト私物