【宇垣美里・愛しのショコラ】ブラウニーは記憶のカギ/第9回

小説・エッセイ

公開日:2020/10/2

 東京の全てが新鮮ではしゃぐ私は振り返るとどう考えてもうざい奴だったし、そのはしゃぎ様はきっと、どうしても馴染み切れなかった故郷への当てつけもあった。その土地で生き、結婚し、やがて死んでいくことを違和感なく受け入れている彼女が、少し羨ましかったのかもしれない。

 海辺を走り回っている頃から私を知っている彼女は、テレビに映る私の姿にどうも違和感があったみたいで、それを指摘されるのもしんどかった。私は好きで、この顔に生まれたわけじゃないんだよ。ただ少しでも生きやすい道を選んでいたら、こんなところまで来てしまった、それだけなんだよ。上手に受け流せなくなった私は、もう傷つきたくなくて、何を言われても反論せず、乾いた笑い声をあげるようになった。

 それは、もう、友達じゃない。

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宇垣美里・愛しのショコラ

 支えになった言葉をたくさんもらった。キラキラとした思い出も山のようにある。ブラウニー片手に山のように借りてきたレンタルビデオを一緒に徹夜でみたこと、2人で初めてお酒を飲んで酔っ払った時、ああ、一緒にキッチンでお菓子作りしたこともあったなあ。

 小学生の時かいた未来の自分への手紙にも、彼女のことが書いてあった。ちょうど喧嘩しているところだけれど、彼女とまだ仲良くしていますか?と。
ごめんね。子どものころはすぐに仲直りできたのに、大人になったら、喧嘩もしてないのに、仲直りができなくなってしまったよ。私たちの心はもう遠いところに離れてしまった。

 スーパーやコンビニ、洋菓子店で見つけるたびにブラウニーを買う。仕事しながらぱくつけるから、ついつい大目に買ってしまうのはご愛敬。すぐ満腹になって、気持ちが満たされるからコスパがいい。自分で作ることもあったけど、あの味は越えられないからいつしか作らなくなった。でも、相変わらず大好きだ。

 美味しいがぎゅっとつまった最高に贅沢な私の大好物・ブラウニー。時々食べながらあの頃に想いを馳せて、カフェオレで後悔ごと流し込む。やっぱり、美味しい。きらいになんて、なれるはずない。


【筆者プロフィール】
宇垣美里(うがき・みさと)
兵庫県出身。2019年3月にTBSテレビを退社し、4月からフリーのアナウンサーとして活躍中。チョコレートのほか、無類の旅好き、コスメ好きとしても知られる。週刊誌、WEBサイトでコラムやエッセイなど多数連載中。20年11月に自身初の美容本「宇垣美里のコスメ愛(仮)」を発売予定。

撮影=中村和孝(まきうらオフィス)/ヘアメイク=AYA(LA DONNA)/スタイリスト=小川未久(宇垣さん衣装)、片野坂圭子(雑貨)/編集協力=千葉由知(ribelo visualworks)

衣装協力=ココシュニック(アクセサリー/https://store.world.co.jp/s/brand/cocoshnik/)/その他、スタイリスト私物