実希は出場者の高校生に聞き取り調査を開始。そしてトラブルの被害者に連絡すると意外な言葉が!?/珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて④

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/15

累計235万部突破!『このミス』大賞人気シリーズ『珈琲店タレーランの事件簿』第7弾。岡崎琢磨著の書籍『珈琲店タレーランの事件簿 7 悲しみの底に角砂糖を沈めて』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第4回目です。「全国高校ビブリオバトル」での苦情を受け謝罪に訪れた、読裏新聞社社員・徳山美希。美希は事務局員として、「全国高校ビブリオバトル」のイベント運営を担当することになり、決勝大会当日、プレゼンの順番決めの抽選でトラブルが起こる。いったい誰がなんのために細工したのか!? 女性バリスタ・切間美星が珈琲店タレーランに持ち込まれる7つの謎を解いていく――。ビブリオバトル決勝大会で起きた実際の出来事をはじめ、日常にさりげなく潜む謎のかけらを結晶化した大人気喫茶店ミステリー『珈琲店タレーランの事件簿 7 悲しみの底に角砂糖を沈めて』。シリーズファンはもちろん、はじめて読む人も楽しめる短編集! Aブロックの生徒に対する聞き込み調査が終了。そしてトラブルの被害者・榎本さんにアポを取ろうと電話をすると、彼女の口から意外な言葉が!?

※この物語は2020年1月に開催された全国高等学校ビブリオバトル決勝大会で実際に起きた出来事を元にしたフィクションです。出場された高校生の皆さんを疑う意図は作者にありませんことを、あらかじめご了承ください。

珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて
『珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて』(岡崎琢磨/宝島社)

 電話を切る。これでAブロックとBブロックの出場者十二人中、二人の無罪が確定した。消去法の観点では前進したと言えるが、犯人特定につながる決定打は依然得られていない。

 その後もわたしは聞き取り調査を続けたが、Aブロック四番手の女子も六番手の男子も、やはり何も目撃してはおらず、新房くんたちのように身の潔白を証明してくれる人もいない、という返事だった。ネットだけでつながりがあった新房くんと大地くんを含め、全員が初対面という状況では無理もないことだ。誰かと関係を結ぶことはもとより、自分以外の誰かに注意を払うのも難しい。

 ほとんど何の収穫もなく、Aブロックの生徒に対する聞き取り調査が終了した。京都旅行の日が近づきつつあったので、わたしは榎本さんにアポを取ることを優先し、電話をかけた。

「榎本さん? わたし、読裏新聞活字推進委員会事務局の徳山実希です。先日のビブリオバトルのときに、抽選箱の件でお話ししました」

『あぁ……何の用ですか?』

 電話越しにも榎本さんの声は硬い。まだ、わたしのことを許していないのだなと思った。

「大会運営の不手際でご迷惑をおかけしたことを、直接お詫びしたいと思っています。来週末、京都に行きますので、もしよろしければどこかでお時間を作っていただけないでしょうか」

『えっ……来週末なら、特に予定はないですけど』

 榎本さんの反応からは戸惑いが伝わってくる。大人が高校生に謝るために、東京から京都まで足を運ぶことの重大さを測りかねているようだ。謝罪を受けることについて考えるよりも先に、わたしの唐突な申し出に思わず流されてしまった、といった態度である。

「ありがとうございます。それでは……」

 その後、いくつかのやりとりを経て、わたしは榎本さんと会う日時と場所を取り決めた。

 電話の最後に、わたしは責任を感じていることを示すつもりで言った。

「くじ引きでなぜあんなことが起きてしまったのかについては、休憩時間に本部にいた高校生たちに話を聞くなどして、現在調査を進めています。まだ、有力な情報は得られていませんが」

 とたん、榎本さんが語気を強めた。

『犯人探しなんてやめてください』

 思わぬ展開にわたしはたじろいで、

「でも、何が起きたのかを把握できなければ、十全な再発防止策を講じられるとは言いがたく、謝罪するにしても画竜点睛を欠くのではと……」

『あたし、抽選箱に細工した人を責める気にはなれません。同じくがんばってきた出場者として、ズルをしてでも勝ちたい、と思う気持ちはわかるから』

 榎本さんが犯人をかばうのは意外だったが、その理由には説得力があった。

『だからこそ、初めからズルをできないようにするのが、スタッフの役目だと思います。再発防止なんて、抽選箱から目を離さなければいいだけのことですよね。犯人探しをして、責任転嫁するのはやめてください。でなければ、謝罪を聞く気にはなれません』

 わたしは何も言い返せなかった。不正をはたらいた人が悪い、というのはひとつの正論ではある。が、スタッフと出場者、大人と高校生という立場の違いも考慮しなくてはならない。出場者たちを不正から遠ざけることは、わたしたちスタッフの義務だったのだ。

「わかりました。調査は打ち切ります」

 そう約束するしかなかった。榎本さんは『それなら謝罪に応じます』と言い、電話を切った。

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