今日の星座占い1位「おとめ座」の詩都花! 躍らせながら学校へ行くと…/5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール④
更新日:2022/7/20
「桜木さーん。お客さん来てるよー」
廊下に近い席に座っているクラスメイトの女子が、詩都花を呼んだ。「お客さん」に心当たりはないまま詩都花が目だけを教室の入り口に向けると、そこにぽつんと立っていた男子生徒と目が合った。あちらも詩都花に気づいたらしく、ぺこりと素早いお辞儀が返ってくる。
四角い黒縁メガネをかけた、中肉中背の男子。シャツのボタンは、きちんと一番上までとめられている。隣のクラスの学級委員長、檜山だ。定期的な学級委員長どうしの集まりで話す程度の仲だが、まったく知らない相手ではない。
檜山は、どこかそわそわして教室の中に入ってこようとしない。不思議に思いながらも詩都花は席を立ち、檜山のもとへ向かった。
「どうしたの、檜山くん。今度の委員会のこと?」
「あぁ、うん……あっ、いや、そうじゃなくて……」
ひどく落ち着きがない様子の檜山に、詩都花は首をかしげた。どうしたのかと顔をのぞきこむと、目が合う前にそらされてしまう。これでは会話にならない。
「なに? 檜山くん」
詩都花がダメ押しで尋ねると、檜山はハッとしたふうに目をみはった。ようやく、詩都花と目が合う。
すると突然、その目に力が入り、口もとも、決意したようにキュッと引き結ばれた。
「ちょっと、こっち来て」
ささやいた檜山がきびすを返す。怪訝に思いながらも、詩都花は続いて廊下に出た。
檜山が、くるりと振り返る。今度は一発で目が合った。
「最初の委員会で会ったときから、桜木さんのことが気になってたんだ。だから、その……よかったら、僕と、付き合ってください!」
まさに不意打ちだった。
檜山とは、委員会のときに、自分のクラスの近況報告をするくらいの関係だ。委員長どうし、雑談のなかで、悩みを話し合うことはあったが、それ以上の関わりはない。
だから、こんな――告白されるなんて。しかも、こんなところで。
力んでしまったのか、檜山の「告白」の声は、それなりに大きかった。昼休みで廊下に人気はなかったとはいえ、教室にいたクラスメイト数人には、聞こえてしまったかもしれない。とくに、聞き耳を立てているであろう紗月とエミには筒抜けだろう。
……これは、けっこう恥ずかしい。
一気に顔が火照ってきたのを、詩都花は自覚する。「ごめんムリ」と、とっさに口走りそうになって、すんでのところで檜山の表情に気づいた。
目をそらしたいのを、必死にこらえているのだろう。唇をかたく結び、上下に目線を揺らしながらも、懸命にこちらを見つめてくる檜山の顔は、真っ赤になっていた。
きっと、極度の緊張と、照れと、思わず大きな声を出してしまったことへの動揺や恥ずかしさ……いろいろな思いが入り混じった表情を前に、詩都花は、即答することができなかった。
「え、っと……」
詩都花のその声にも、ピクリと檜山は肩を震わせた。こんなに臆病に見える男子だっただろうかと、詩都花は場違いにも、少し新鮮さを感じていた。
「その……ちょっと、時間もらってもいい、かな……。考えさせてほしいかな、って……」
「あ、そっか……そうだよね! うん、わかった。じゃあ、答えが出たら、聞かせて?」
詩都花がうなずくのを見て、檜山は、くしゃっと笑った。それから詩都花に背を向けて、足早に廊下を歩いていく。檜山の背中が見えなくなってから、詩都花は自分の席に戻った。
「――で、どうするのよ?」
やはり、廊下でのやりとりは、紗月とエミに筒抜けだったらしい。
「すごいよ、詩都花ちゃん! 1日に3人から告白されるなんて!」
「ガチのモテ期じゃん! うらやましー」
「彼氏がいるのにそんなこと言ったら、バチが当たるわよ、紗月」
それが詩都花の照れ隠しなのは、紗月にもエミにも見え見えだった。なので、気にすることなく話を先に進める。
「この際だし、誰かと付き合っちゃいなよ」
好奇心に輝く瞳で言ってくる紗月に、詩都花はあきれて、ため息をついた。
「あのねぇ、他人事だと思って……」
「だけど、モテるのは悪いことじゃないでしょ?」
「それだけ詩都花ちゃんが魅力的ってことだもんねー」
そうほめてくるエミに言葉を返そうとして、はっと詩都花は言葉をのんだ。
――異性があなたの魅力に釘づけになるでしょう。
今朝、紗月から送られてきた「ホロスコ!」の占い結果を思い出す。
まさか、占いが当たったってこと? よく当たるっていう噂だけど、でも、まさか……。