ベストセラー『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の原点!『七帝柔道記』超ボリューム試し読み【3/8】【3月18日続編発売】

文芸・カルチャー

更新日:2024/3/2

尋常じゃない血と汗と涙で大反響を呼んだ青春小説の金字塔『七帝柔道記』。その11年ぶりとなる続編『七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり』が3月18日(月)に発売されます! これを記念して、『七帝柔道記』の超ボリューム試し読みを実施!
15人の団体戦、一本勝ちのみ、場外なし、参ったなし、締めは落ちるまで、関節技は折れるまで。旧七帝国大学のみで戦われる、寝技中心の異形の柔道「七帝柔道」。
その壮絶な世界に飛び込んだ主人公の青春を描いた本作は、柔道の話でありながら誰もが共感する普遍的な人間ドラマとして、各界で大絶賛されました。
とにかく面白過ぎて、読み始めたら徹夜必至! 至高の青春小説を是非お楽しみください!

advertisement

『七帝柔道記』超ボリューム試し読み【3/8】

第2章 あこがれの北海道大学柔道部

   

 初めてのひとり暮らしを始めた私は、しかしその日から何もやることがなくて困った。
 地下鉄に乗ってススキノへ出たり、近くの古書店で本を買ってきたりしたが、すぐにそんなことには飽きてしまった。とにかく暇で暇でしかたなかった。
 大家が「びっくりするくらいれいな人」と言ったアパートの向かいの部屋の獣医学部女子学生が帰省先の愛媛から戻ってきて、その言葉が噓だったことを知り、がっかりもしていた。大家にうまくだまされたのだ。だが、女子学生のほうもがっかりしているようだった。初々しい男子新入生を期待していたのに私のような二浪生が入居してきたのだ。罪作りな大家である。
 四月五日、まずはとにかく大学生気分というものを味わってみようと、アパートから歩いて十分くらいのところにある北大教養部の食堂まで昼飯を食いにいった。
 定食をプラスチックトレイに載せて座る場所を探していると、頭を短く丸めた目つきの悪い男がいた。ふてぶてしく椅子の上にあぐらをかき、食い物を口に運んでは、不機嫌そうに口をゆがめてそれをしやくしている。とても北大生には見えない。いや、かたの人間にすら見えない。他の学生たちも怖いからだろう、その男のテーブルには誰も座っていなかった。
 しかし、濃紺に赤いラインが入ったその毛玉だらけの服は、どうみても柔道ジャージだ。どうの上から着るウォームアップ用のもので、セーターのような生地でできている。
 横目で確認すると胸に〈北大柔道〉と赤いしゆうがあった。男の耳が醜くつぶれているのを見て、同好会やサークルではなく体育会柔道部であるのを確信した。
 男がこちらの視線に気づき、ぎろりと私を見た。慌てて視線をそらし、離れたところに座った。
 しばらくして目を上げると、その男はまだ私をじっとにらみつけていた。私はまた慌てて目をそらした。

   

 四月八日は昼過ぎに起き、二時過ぎにアパートを出た。
 入学式をどこでやるのかは知らなかったが、おそらく体育館でやったのだろう、着飾った学生たちがまだ何人か構内をうろうろしていた。体育館の陰にはたくさんの雪が残っていた。
 私は高校時代に柔道部で揃えて作ったジャージを着てそのあたりを行ったりきたりしていた。体育館の裏にある武道館に入る決心がつかなかったのである。一度入部すれば四年目の引退の日まで縛られるのだ。
 武道館を外から眺めると、二階の右の窓に「柔道部」と大書した紙が貼ってある。その左側に「剣道部」、その下の一階には「空手部」とあった。
 さんざん悩んだ末、武道館に入った。
 入り口ホールで何十人もの学生が少林寺けんぽうをやっていた。私より大きな学生はいなかった。女子部員もたくさんいる。柔道部は女人禁制でマネージャーすらいないと鷹山から聞いていた。少林寺に入部したらどんな大学生活になるだろうと心が動いたが、それでは北大に入った意味がなくなってしまう。
 ホールの自販機で缶ジュースを買い、それを飲みながら階段の脇に座った。二階の様子をうかがっていると、少林寺拳法部の男が近づいてきた。
「君は新入生か。見学に来たのか」
「私は剣道部のOBだが、何か」
「あ……すいません……」
「気にしなくてもいい。一生懸命やりなさい。学生時代は一度きりなんだから」
 彼は赤くなって頭を下げ、走って練習に戻っていった。
 水を飲みに来るのかトイレに来るのか、ときどき耳の潰れた柔道部員が裸足はだしでぺたぺたと階段を降りてくる。寝技をやるからだろう、みな一様にどうの背中が真っ黒に汚れていた。その道衣は大量の汗を吸って漬け物のように重そうだった。柔道部員が来るたびに、私は目が合わないように下を向いた。今日顔を出さなくても明日あしたでもいいではないか、いや明後日あさつてでも三日後でも一週間後でも誰にも文句は言われないのだ。昼頃、歌手の岡田がビルから飛び降り自殺し、テレビが大騒ぎになっていた。同郷名古屋出身の彼女の死にショックを受けてアパートを出てきたのだ。しかし一方で続報を見たい気持ちもあった。
 柔道場に上がるかアパートに戻るか──。
 悩みに悩んだ。
 剣道部の男からも声をかけられた。今度は「俺は少林寺拳法部のOBだ。見てわからないのかね、君は」と叱ってやった。剣道部員は驚いて「失礼しました!」と頭を下げ、行ってしまった。
 さらにそこから一時間近くしゆんじゆんし、缶ジュースを三本飲み終えたところで、ようやく私は意を決して階段を上った。柔道場のドアの前で深呼吸して、ゆっくりとドアを引いた。
 その瞬間、湿度の高い空気が私の顔を覆った。
 広い道場で、まばらに十数人がわざらんりをしていた。畳の上でごろごろと組み合うそれぞれの体から、大量の湯気がもうもうと上がっていた。汗だった。たちわざのように畳にたたきつけられる音もなく、ただ苦しそうな息遣いとうめき声だけが聞こえる。これほど殺伐とした光景を見たのは初めてだった。
 入部はやはり明日にしよう……。
 そっとドアを閉めようとすると、ストップウオッチを持った男が私を見つけて小走りにやって来た。
「新入生かい?」
 柔道家にはみえないほどすらりと背が高く、理系の学者のような雰囲気だった。
「はい……」
「入ってこいよ」
 もう逃げられない。私は道場に入り、後ろ手にドアを閉めた。
 男は眼鏡を人差し指で上げながら、うれしそうにマジックを手渡した。
「ここに出身校と名前、住所を書いてくれ」
 壁に新聞紙大の紙が三枚貼ってあり、上から数人の名前が書いてあった。しかたなく出身校や名前を書いていくと、「君、もしかして鷹山のあさひの同級生か?」と聞かれた。
「はい、そうですが……」
「鷹山に昔からよく聞いてたよ。そうか、受かったのか。よかったな」と私の背中を叩いた。そして「俺は二年目のすぎっていうんだ。俺も名古屋出身なんだよ。ずいりよう高校だ」と言った。
 杉田先輩に促されて、二台あるベンチプレス台の一つに座った。脇に大量のバーベルプレートやダンベルが無造作に置いてあった。
「昨日、もう二人入部してるよ」
 壁の紙をよく見ると、たしかに二人の名前の左に花丸が描いてあった。
「その二人はどこにいますか」
 私が聞くと、杉田先輩が笑った。
「おい。そういえば今日、入学式だって言ってたぞ。君は出てないのか」
「はい」
「はっははは。鷹山に聞いたとおり、いい加減なやつだな」
 杉田先輩が部室内から『北大柔道』という厚さ一センチほどの書物を持ってきて「これ、一冊やるから持って帰りな」と言い、もう一つのベンチプレス台に座った。毎年現役とOB全員に配られる年刊誌だという。巻末にOBや部員の名簿が載っており、それを見ながらいろいろ教えてくれた。
「二年目は杉田先輩だけだって鷹山から聞いたんですが……大変ですね」
「いや、鷹山が十一月にめて、そのあと橋本が十二月に辞めて俺ひとりになっちまったんだけど、今年に入って二月に後藤ってやつと三月に斉藤っていうやつが入ったんだ」
 三人いると聞いて少しほっとした。しかし入部したばかりなら一年目と実力的には同じだ。
 それから杉田先輩は名前の後ろに先輩とはつけなくていいと言った。うちの部は、名前の下にさん付けするだけでいいのだと言った。
 顔中にひげを生やした体格のいい男が乱取りを抜けてやってきた。おう像のようないかめしい顔をしていた。仁王はそでで汗をぬぐいながら、にやりと笑った。
「ほう。新入生かい」
 乱れた道衣の隙間から見える胸の筋肉が女のしりのように大きく隆起していた。
「道衣を着てみたらどうだ」
 仁王が言った。
 私は慌てた。
「いえ、二浪なんでとてもまだ無理です」
「いいだろう。なあ杉田、柔道衣持ってきてやれ」
 杉田さんが部室に入っていって、汚い道衣を持ってきた。受け取るとひどい臭いがした。仁王はすぐに乱取りに戻っていった。
 杉田さんが、あれは四年目の副主将で斉藤ゆきひこさんという強い人だと教えてくれた。農業土木を専攻している人だという。二年目に斉藤てつさんがいるので、幸彦さんは出身のとらひめ高校からとって部員からは斉藤トラさんと呼ばれ、斉藤哲雄さんは軽量級なので斉藤ネコさん、あるいは斉藤テツさんと呼ばれているという。
 しばらく話していると、別の男が乱取りを抜けてやってきた。それを見て、私はびっくりした。教養食堂で私を睨んでいた、あの目つきの悪い男だ。眼光けいけいという言葉があるが、まさにこの男にぴったりだった。日本人にしては彫りが深すぎる──。
「杉田、この男、新入生かいね?」
 その男が怒ったように言って私をじろじろ見た。強いなまりがあった。杉田さんが「そうです」と言って説明しようとしたが、男は何も言わずに乱取りに戻っていってしまった。教養部の食堂で私がガンを飛ばしたと思い、怒っているのだろうか──。
「三年目の和泉いずみさんだよ」
 杉田さんが教えてくれた。
「怖そうな人ですね……」
「はっはは。怖くない怖くない。優しい人だよ」
 座り直して『北大柔道』をめくった。和泉唯信と書いてあった。
 杉田さんがそれを見て言った。
「下の名前は音読みでユイシンて読むんだ。坊さんなんだよ、家が」
 なるほど、それで頭を丸めているのだ。部員はそれぞれ好き勝手な髪型をしていた。
「和泉さんてハーフですか?」
 こわごわ聞いてみると、杉田さんは「違う違う」と大笑いして「でもたしかにそう見えるよなあ」と言った。
 練習は鷹山に聞いたとおり寝技ばかりだった。
 ときどきほどけた帯を結び直すために立ち上がる以外は、みんな寝たまま上になったり下になったりしていた。今まで見たこともない未知の関節技や絞め技がたくさんあった。みな全身から汗の蒸気とともにそう感を漂わせ、うめき声を上げている。
「ファイトだ」
 先輩たちは道衣を直しているとき、青い顔でそうかすれた声を上げた。「ファイトです」と「です」をつけているのは二年目だろう。人数が少ないのでそういう言葉にも威勢の良さより痛々しさとおそろしさを感じた。
 一年目がひとりで心細いのがわかったのだろう、杉田さんがずっと話し相手をしてくれた。北大の全学生の道内道外出身者の割合は半々だが、なぜか柔道部員の八割以上が道外出身者だとか、そういった話もしてくれた。

 結局、道衣を着ないまま最後まで練習を見た。
 寝技乱取りが終わると、全員が道衣を脱いで上半身裸になった。みなボディビルダーのようなすさまじい体をしていた。ぜいにくがなく、背中の筋肉の細かい線までくっきり見えた。そこから延々と三百回の腕立て伏せが始まった。杉田さんも裸になって腕立て伏せに参加していた。普通の腕立てではなく柔道家特有の「すりあげ」という全身の筋肉を使ったゆっくりとした腕立て伏せだ。部員たちの顔から体から大量の汗が滴り続け、畳の上に落ちて水たまりのようになっていく。背中から汗の蒸気がゆらゆらと上がり続ける。やっと三百回が終わると、先輩たちはそれぞれ汗の水たまりの上にあおけになって腹を上下させていた。
 その後、高い天井から下がるロープ登りを交代で何度も繰り返した。
「整列!」
 主将らしき男の声で、部員たちがいっせいにどうを着て帯を結び直し、道場の真ん中へ走って横一列に正座した。杉田さんも走っていって端に座った。
「神前に礼! お互いに礼!」
 続けて「ミーティング!」という声で、サッと全員が立ち上がり、部室に入っていく。
「君も来いよ」
 一人が走ってきて手招きした。
「いえ。いいです」
あいさつがあるからおいで」
 杉田さんもやって来て、笑いながら腕を軽く引いた。しかたなくついていった。
 全員が入ると、ガタンとドアが閉じられた。
 その大きな音が、私には死刑台の床が開く音に聞こえた。あこがれに憧れて入った北大柔道部だった。だが、そこがいままで私が経験したことがない苦行の場であることは、鷹山の話から充分すぎるほどわかっていた。
 二十畳くらいの細長い部室だった。その中で部員たちはえん形にくるまになってあぐらをかいた。
 端整な顔立ちの主将が言った。
「いよいよ七帝が近づいてきた。これから合宿や延長練習が続き、練習はますますきつくなっていく。怪我をしないよう、体のケアに努めること。新入生も何人か入った。気合いのこもった練習を見せようじゃないか。なにか意見ある者は」
 かつぜつのいい、はきはきとした口調だった。
 誰も手を上げない。主将が私を見た。
「よし。じゃあ挨拶してくれ」
「え、僕ですか……」
「ほらほら、立って」
 杉田さんに促されて立ち上がったが、柔道衣姿の先輩たちに囲まれて頭の中が真っ白になってしまった。
「増田といいます。名古屋の旭丘高校出身です……」
 ここで詰まった。
「頑張れ」
 誰かが言った。
「……僕は北大に柔道をやりに来ました。ですから、水産系ですが四年間ははこだてに行くつもりはありません。留年して札幌で四年間、柔道をやります」
 ほう、と声がいくつか上がった。いいじゃねえか、と声が上がった。
「彼に質問があったら言ってくれ」
 主将が言った。
「はい」
 ごつい先輩が手を挙げた。
「好きな女性芸能人を教えてください」
 みんなにやつきながら答を待っている。
だんふみさんです」
 沸いた。
「よし。解散!」
 主将の声で一斉に立ち上がって着替えだした。人数は少ないが、一つひとつの動作がてきぱきしていて、高校と違って新鮮だった。
 部室から出ると、すでに合気道部らしき学生たち四、五十人が道場いっぱいに広がって練習を始めていた。柔道部が十人あまりで殺伐とした練習をしているのとは対照的だった。しかも半分近くが女子部員だった。一階で少林寺けんぽう部を見たときより、さらにうらやましく思った。柔道のように乱取り──つまり試合形式でフルパワーで戦う練習もないので、ときどききようせいをあげながら楽しそうに練習をしていた。
 中量級くらいの優しそうな柔道部員が部室から出てきて、解いた帯をぐるぐる回しながら話しかけてきた。
「おいおい増田君。俺も入部のとき檀ふみが好きだって言ったんだよな」
 耳がひどい形につぶれていた。丸く膨れ上がったまま固まった耳は、餃子ぎようざみみというよりシュウマイ耳だった。
「増田君はここがどういう柔道部か知ってて来たのかい?」
「…………?」
「七帝柔道といってな、特別なルールでやってんだよ。寝技ばっかりだ」
「それは知ってます」
「へえ。なんで知ってるんだ?」
めいだいに誘われたことがあります。それで寝技をやりたくて北大に入ったんです」
「ほう、面白いやつが来たな。しかし大変だぞ、ここの練習は。一年目は二年目になるまでにほとんど辞めていくんだ」
 後ろから杉田さんがやってきて紹介してくれた。
「この人はまつうらさんといってのうばけ(農学部のうげいがく)の三年目だ。松浦さん、増田は鷹山の高校の同級生ですよ」
「鷹山の? あいつ一浪だろ。じゃあ増田君は二浪か」
「はい」
「おお、それも俺と一緒だ。気が合いそうだな」
 松浦さんがうれしそうに私の肩を二度たたいた。
「おいおい、松浦。なに言って新入生いじめてんだよ」
 さっき好きな芸能人は誰かと質問したごつい人が肩を揺すりながらやってきた。髪は角刈りで、肩幅が広くて胸が厚い、いかにもの柔道体型である。ごつい人は「ひい」と言って続けた。
「おかしなこと言ったら辞めちまうじゃねえかよ。七帝ルール知って入部してくるなんてしゆしようなやつは今どきいねえんだからよ。もっと大事にしろよな」
おかさんこそ厳しいこと言って辞めさせないでくださいよ」
 松浦さんはそう言って笑い、また帯をぐるぐると二、三度回した。
「あのなあ松浦、俺たち、ただでさえおかしく思われてんだぞ。空手部のやつに言われちまったよ。『柔道部って仏教の修行者の集まりみたいですね』ってよ。大昔のルールできつい寝技ばっかりやってんだからな。言われてもしかたねえぞ」
 ひい、と言うのが岡田さんの癖のようで話しながら途中で何度か言った。
 そこに上半身裸の和泉さんがやってきた。軽量級だが、首の左右に広がるそうぼうきんからだいきようきんまでが見事に発達した逆三角形だった。
「あんた、今日これから用事あるん?」
 ぶっきらぼうに聞いた。鋭い眼光を私の目からそらさない。
「別にないですが……」
 されながら私は答えた。
「ちょっと、わしと行こうや」
「はい?」
「なんか食いに行こうで」
「いいすよ、和泉さん。われわれ二年目がおごりますから」
 横から杉田さんが言った。
「ええよ。今日はわしが連れてくけ」
 和泉さんはぶすっとしたまま部室に戻っていった。
 しばらくすると、教養食堂で着ていた紺色のジャージの上に分厚いコートを羽織った和泉さんが出てきた。そして、何も言わずそのまま階段を降りていった。私は入部早々怖い先輩につかまってしまった悲運を嘆きながら、急いで後を追った。

> #4へ続く

作品紹介

七帝柔道記
著者 増田 俊也
発売日:2017年02月25日

青春小説の金字塔!
○「尋常ではないスポーツバカたちの異界。大笑いしながらよんでいたのに、いつの間にか泣かされてました」(森絵都/作家)
○「熱いものがこみ上げてきて止まらなくなる。私たちの知らなかった青春がここにある」(北上次郎/文芸評論家/日刊ゲンダイ2013年3月22日付)

このミス大賞出身の小説家、増田俊也が大宅賞と新潮ドキュメント賞W受賞作「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」に続いて出したこの自伝的青春小説は、
各界から絶賛され、第4回山田風太郎賞候補にもノミネートされた。

主人公は、七帝柔道という寝技だけの特異な柔道が旧帝大にあることを知り、それに憧れて2浪して遠く北海道大学柔道部に入部する。
そこにあったのは、15人の団体戦、一本勝ちのみ、場外なし、参ったなし、という壮絶な世界だった。
しかし、かつて超弩級をそろえ、圧倒的な強さを誇った北大柔道部は七帝戦で連続最下位を続けるどん底の状態だった。
そこから脱出するために「練習量が必ず結果に出る」という言葉を信じて極限の練習量をこなす。
東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学、ライバルの他の6校も、それぞれ全国各地で厳しい練習をこなし七帝戦優勝を目指している。
そこで北大は浮上することができるのか――。

偏差値だけで生きてきた頭でっかちの7大学の青年たちが、それが通じない世界に飛び込み、
今までのプライドをずたずたに破壊され、「強さ」「腕力」という新たなる世界で己の限界に挑んでいく。
個性あふれる先輩や同期たちに囲まれ、日本一広い北海道大学キャンパスで、吹雪の吹きすさぶなか、
練習だけではなく、獣医学部に進むのか文学部に進むのかなどと悩みながら、大学祭や恋愛、部の伝統行事などで、
悩み、苦しみ、笑い、悲しみ、また泣き、笑う。唯一の支えは、共に闘う仲間たちだった。そしてラストは――。

性別や年齢を超えてあらゆる人間が共有し共感できる青春そのものが、北の果て札幌を舞台に描かれる。

詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/321601000167/
amazonページはこちら