はたしてその接近は、友情なのか、恋なのか。音楽と共に疾走する女同士の愛情物語――『気になってる人が男じゃなかった VOL.2』新井すみこ【評者:立花 もも】

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/15

受賞続々の話題作、待望の第2巻。
『気になってる人が男じゃなかった VOL.2』レビュー

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文:立花もも

 自分にとって大事な領域を、安易に人に明け渡して穢されるくらいなら、一人でいい。でも、誰とも想いを共有できないのは、やっぱりさみしい。そんな我儘なジレンマを十代のころは後生大事に抱いていたなと、マンガ『気になってる人が男じゃなかった』(新井すみこ/KADOKAWA)を読んでいると思い出す。

大人になるということが、そのジレンマに折り合いをつけて、傷つきすぎない人との付き合い方を覚えるということならば、本作の主人公であるあやとみつきはまだまだ子どもだ。でも、どうかそのままで、泣いたり笑ったりをくりかえしながらも、相手をまっすぐに思う気持ちを忘れないで大人になってほしい。そう願うことで、読んでいる私たちもまた、かつて手にしていたはずの煌めきを取り戻すことができる。

 昨年、「次にくるマンガ大賞2023」Webマンガ部門第1位と「このマンガがすごい!2024」オンナ編第2位を獲得した本作は、タイトルどおり、女子高生のあやが気になっているCDショップのバイトのおにーさんが男じゃなかった、どころかクラスで隣の席に座る地味な女子・みつきだったという物語。放課後の二人はNIRVANAをはじめとする洋楽ロックを愛する同志だけれど、教室のなかでは陽キャと陰キャ。明らかに立ち位置の異なる二人の接近は、あやの友人関係に波紋を呼ぶ。

 自分のせいであやに迷惑をかけてしまうと、みつきが身をひきかけたのが1巻の終わり。一緒に行くはずだったライブのチケットを、勝手にあやの友人に譲ってしまうみつきに、2巻冒頭であやは激怒する。これまで「キャラじゃない」と言われて誰にも話せなかった音楽のことを、共有できる相手に出会えたことが嬉しかった。友達になれたと思っていた。その想いをぶつけ、初めて喧嘩に似たものを経験したことで、二人の仲はますます近づいていくのだが……はたしてその接近は、友情なのか、恋なのか。本人たちすら自覚できない、狭間の感情で揺れ動く姿が、甘酸っぱくももどかしい。

 でもそもそも、友情と恋の区別なんてつける必要があるのだろうか、とも思う。生き生きとした笑顔で音楽について語るみつきを、もっとみんなに知ってほしい。CDショップだけでなく、教室のなかにも一緒の居場所をつくっていきたい。そう願って不慣れなことにも挑戦し、みつきを巻き込もうとするあやの気持ちは、まぎれもない愛だと思う。その気持ちにまっすぐ応えるにはみつきは不器用で、あやを置いてきぼりにして創作に没頭してしまったりもするけれど、でも、インスピレーションを与えてくれるのも、つくった楽曲を聴かせたいと願うのもあやだという事実もまた、何より深い愛だと思う。

 2巻では、CDショップの店長でみつきを溺愛する叔父の元恋人が登場する。選んだ道は違っても、互いの違いを認めながら帰る場所になることが、大人になった今だからこそできるんじゃないだろうか。音楽が好き、という一点のみでつながるあやとみつきが、どうにか一緒にいられる道を模索しているように。恋人であろうと、友達であろうと、その関係に名前がつくものでなくてもいいから、どうかそうあってほしいと祈ってしまう、大人二人の関係にも要注目の2巻である。

作品紹介

気になってる人が男じゃなかった VOL.2
著 者:新井すみこ
発売日:2024年02月27日

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322308001312/
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