文芸評論家・三宅香帆氏「裏も表も強さも弱さも、全部その人の魅力だと教えてくれる」。はやみねかおる作品の魅力は「ワルさ」も持ち合わせたキャラクターたち《インタビュー》
PR 更新日:2025/1/30
――個人的に好きなのが、亜衣がいろんな人からどんどん食べ物をプレゼントされて、満腹にさせられる話。教授をはじめ、みんな意地汚いなあと思って、笑いました。

三宅 ありましたね!(笑) それこそ、みんなが「いい子」「いい人」ではなく不完全なんだってことが描かれるのも、はやみね作品の魅力。個人的には、亜衣のボーイフレンドであるレーチが、表面上はクールに気取っているけれど、実は些細なことにくよくよ悩んでいるって描写が大好きで。「レーチの文学的苦悩」というサブタイトルで、いろんな作品にちょこちょこ挿し込まれるのを読みながら、なんて愛おしいんだろうと思いました。人には誰しも得意不得意があり、自分にできることのなかで懸命に生きているんだってことが、亜衣ちゃんたち中学生のもがきだけでなく、教授のハチャメチャさをも通じて、しっかり描かれていました。
――大人たちがみんな、けっこう、中学生以上に変なんですよね。
三宅 今改めて読み返すと、なおさら大人たちの描写が秀逸であることがわかりますよね。不完全な大人たちが受容される世界のなかで、子どもは子どもとしてのびやかに生きてほしいという優しさが通底しているのもいいなと思いました。亜衣ちゃんが小説を応募したとき、編集部から電話越しに「このまま本をたくさん読んで、いろんなことを体験していってください」というようなことを言われる場面がありましたが、背伸びしたい気持ちも肯定しつつ優しく見守ってくれるような、はやみねさんのまなざしがとても好きでした。
――子どもは守られるべき存在だけど、自主性を摘んではいけないという、バランスが絶妙なんですよね。はやみねさんご自身が、小学校の先生をされていたのが大きいとは思いますが。
三宅 どうしても学校では「悪いことはしちゃいけない」という意識が植えつけられるから、どんなにのびのびしているように見える環境でも、無意識に誰もが抑圧されていると思うんです。こういうことしたら怒られるかなとか、こういうものを読んでいるのが見つかったらまずい、とか。先生や大人の側にも、正しい姿を子どもに見せなくちゃいけないという気負いがある。でも、たとえば『あやかし修学旅行 鵺のなく夜 名探偵夢水清志郎事件ノート⑨』では、ちゃんと夜の枕投げ大会とか、「ワルい遊び心」を刺激するような場面もたくさん描いてくれて。

――先生たちを欺くために、裏の行動表をつくったりしていましたよね。
三宅 大人に不信感をもっているわけではないし、むしろ信頼はしているんだけれど、全面的な味方でないことも理解していて、その目をすり抜けていかに自由を手に入れるか、という試行錯誤も、読んでいてとてもわくわくしました。