「ヨシタケシンスケ展かもしれない」が“たっぷり増量”して帰ってきた! 大人も子どもと一緒に楽しんでしまう、魅惑の展覧会をレポート!

文芸・カルチャー

公開日:2025/4/12

 展覧会なのに決まった順路がほとんどなく、展示と展示の隙間に創作物が潜んでいたり、電子パネルの前に立つと自分の顔が「りんごかもしれない」状態になったり……。宝探しと冒険がたっぷりつめこまれ、ヨシタケシンスケさんが描く絵本の世界観をこれでもかというほど具現化した「ヨシタケシンスケ展かもしれない」。2022年4月、東京・世田谷文学館からスタートして全国をめぐり、子どもも大人も関係なく、のべ70万以上の人たちが夢中になった同展覧会が、今年3月20日、さらにパワーアップして帰ってきた。その名も「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」。

 

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 会場であるCREATIVE MUSEUM TOKYOのために描き下ろされたロゴに出迎えられて、足を踏み入れるとまず惹きつけられるのが、壁一面に掲示された、ヨシタケさんが日々描きためている膨大なスケッチの複製。「こういう場ではふつう、原画が展示されて、こんなにも実物は大きいんだと驚くことが多いでしょうが、僕の場合はとにかく小さくて、色もついていない。全部並べてもスペースが余っちゃうので、展覧会なんてできませんよって言ってたんですけど、いろいろ励ましていただくなかで、本ができるまでのあいだ、僕の頭のなかで何が起きているのか、メイキングみたいな展覧会にできたらいいんじゃないかと思うようになりました」とヨシタケさんは語る。

天井まで埋め尽くされた、ヨシタケさんのスケッチは、1枚1枚が貴重な“アイデアの源”

 ヨシタケさんの頭のなか。本展覧会をあらわすのに、これ以上ぴったりな表現はない。順路が決まっていないから、どこから何を見ればいいのかわからない、ということはすべて、来場したその人の自由だということ。絵本ができるまでのプロットやスケッチの隣に、まるで関係ない創作物が展示されているのを見て、勝手に関連性を見出してみたり、意図を解釈したり、あるいはなにも考えずにただひたすら「楽しい」を追求したり、展覧会から何を受けとるかもすべて自由なのである。

 不平不満を言う人たちの口に、りんご型のスポンジボールを上手に投げ込むことができると、とろけるような表情に変わるアトラクションや、地獄や天国の気分を両方味わえるスペースなど、前展覧会で人気を集めた展示も変わらず設置されているが、会場内にいるらしい「ちいさな神さま」探しや「あなただけのおまじないづくりコンピューター」など、今回、初お目見えの仕掛けも多数、とりそろえられている。個人的に、いちばんいいなあと思ったのは、天井の四方に細い窓からのぞきこむような人たちの絵が飾られていること。会場の中央に置かれているあるものとともに「ひょっとして、展示されているのは私たちのほう……かもしれない!?」と思わされる仕掛けがあるのである。

 さらにさらに、通路を抜けて次の展示室へ移動すると、森のような広間が。コロナ禍のピークを越えて「触れる」ことが許されるようになった今だからこそ、アスレチック的な試みもできるということで、木々の狭間に垂れている赤いリングをつかんで、体操選手のようにぶらさがることもできる……のだが、運動不足の人は要注意。地面から足を放すだけでも大変なのに、足を前後に曲げたりと動きを活発にすれば、翌日、背中がバキバキに筋肉痛になること請け合いである(取材陣は、なりました)。

 広間には、「あなただけのヒミツをつくろう!」という趣旨で色とりどりの紙とえんぴつも用意されている。書いた/描いたものを誰にも見せることなく、その場ですぐシュレッダーにほうりこむと、美しい紙吹雪に変化する。そんなことして何の意味があるの? なんてことはヨシタケさんのファンは言わないと思うけれど、あえて無粋に説明させていただくと、心にしまっておくだけでは、自分自身も信じられなくなりそうな想いや願いを、一度言葉や絵にすることで自覚する、というのは、とても大事なことである気がする。そしてそれが、紙吹雪となって展覧会の片隅に残り続けていると思うと、いっそう、その秘密が大切に感じられる。なんて粋な演出なのかと、ふるえてしまった。

 なお、会場併設ショップにはオリジナルグッズがずらりと並び(ちいさな神さまのソフビもあって、神さまが持っている杖にもヨシタケさんらしい仕掛けがあるので要チェック)、「ヨシタケ飲食店かもしれない」という名のテーマカフェでは、これまた作品世界を具現化したようなメニューが豊富。持ち帰りたくなるようなかわいさの「蛇口ドリンクバー」では、3種類のドリンクを自由に混ぜあわせることができ、さらにステッカーのおみやげまでついてくる。食べるのがもったいないヨシタケシンスケ焼きや、一瞬注文をためらうグラタン~おでんかもしれない~、いつか明太子クリームパスタになりたいパスタをはじめ、フードも遊び心が満載のうえ、どれもこれもとてもおいしい。

充実のグッズ売り場
外観からワクワク必至の「ヨシタケ飲食店かもしれない」。世界観を満喫できるオリジナルメニューがいっぱい!
ヨシタケシンスケ焼き

「たっぷり増量」って確かに書いてあるけど、本当にここまで増量していることってある!? と驚かされるほどサプライズだらけで、隅々までわくわくさせてくれる本展示。ぜひ五感で味わいぬいてほしい。

取材・文=立花もも 撮影=島本絵梨佳

ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ
会期 2025年3月20日(木・祝)~2025年6月3日(火)
※5月3日(土・祝)~6日(火・休)、5月31日(土)、6月1日(日)は日時指定制
会場 CREATIVE MUSEUM TOKYO(東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 6階)
開館時間 10:00~18:00
※毎週土・日曜および祝休日は9時から開館
※毎週金・土曜および5月4日(日・祝)・5日(月・祝)は20時まで開館
※最終入場は閉館の30分前まで
休館日 会期中無休
観覧料 【当日券】一般2,000円 高校・大学・専門生1,500円 小・中学生1,000円
オンラインチケットサイト

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