『プラダを着た悪魔』はミランダとアンディのラブストーリー!? ジェーン・スー&高橋芳朗による、大人のための「ラブコメ映画のススメ」【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/4/11

映画じゃないんだから、うまくいかなくても大丈夫。ジェーン・スー、高橋芳朗/ポプラ社

 ラブコメ映画を観る目的は何か。とにかくドキドキしたい、自分の身に起こりえないファンタジックな恋愛を疑似体験したい、過去の恋愛の傷を癒したいなど、人それぞれだろう。そして、ラブコメ映画に目がない人も多い一方で、映画は好きでも恋愛ものは苦手、なんて人もいる。しかし、本書『映画じゃないんだから、うまくいかなくても大丈夫。』(ジェーン・スー、高橋芳朗/ポプラ社)は、そのどちらに対しても、新しいラブコメ映画の楽しみ方を教えてくれる1冊だ。

 著者は、コラムニストのジェーン・スー氏と、音楽ジャーナリストの高橋芳朗氏。ふたりが世界の名作ラブコメ映画の魅力を語る対談を収めた2021年刊行の書籍が、新たな対談を加えて文庫化された。

 取り上げるのは、『ノッティング・ヒルの恋人』(1999年)、『ラブ・アクチュアリー』(2003年)、『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)といった長く愛されてきた名作から、ラブコメのお約束を斬るチャレンジングな『ロマンティックじゃない?』(2019年)まで、設定も切り口もバラエティ豊かな映画たち。ラブコメ映画好きのふたりが、設定や展開の面白さやキャストの魅力までをじっくりと語り合う。知っている映画の話題でふたりの言葉に共感したり、自分とは違う理解に驚いたり、未見の作品にも興味が湧いたりする、ラブコメ映画好きにはたまらない内容だ。

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 しかし、単に作品の胸キュンポイントの紹介にとどまらないのが、この対談のミソ。あのセリフ、あのシーン、あの街の景色といった、作品を輝かせる数々のポイントを映画好きならではの視点で語るほか、作品から受け取る「生き方」や「人を愛するとは?」という人生の本質的なテーマに切り込んでいて、読み応えがある。

 ラブコメの枠を超えた作品も取り上げているため、恋愛ものを敬遠している映画好きも楽しめる。たとえば、美しく聡明なヒロインの成長譚『キューティ・ブロンド』(2001年)について両氏は、ルッキズムが浸透した社会で偏見と闘う主人公が観る者に愛される理由と、この作品が伝える「強さとは?」というメッセージについて語る。カリスマ女性編集長のミランダとの出会いを通じて主人公・アンディが自己実現を叶える『プラダを着た悪魔』(2006年)についてスー氏は、これはミランダとアンディが本気でぶつかり合うラブストーリーだと話す。両氏の鋭い視点が冴えわたる対談だ。

 そして本書の最大の魅力は、ふたりがシビアに「今」の視点で作品をとらえていること。映画を語る時はつい、鑑賞当時の自分の思い出と重ねて作品を美化してしまいがちだが、両氏の視点はアップデートされていて、今、観る意義や楽しみ方を伝えてくれるから、信頼できる。たとえば、大ヒット作『プリティ・ウーマン』(1990年)には男側の都合が見え隠れするという辛辣な言葉が、それを象徴する。一方、時代性云々を抜きにして、年月を経て、自分の映画の受け取り方が変わったことを楽しむ両氏のやりとりも面白い。

 孤独な人、生きづらい人、面倒な大人になってしまった人など、悩める主人公も多いラブコメ映画。本書の対談を読むと、今の自分の悩みや気分に応じて「観たい!」と思える作品が見つかるはずだ。両氏も本書で語っている通り、「明日もがんばろう」という前向きな気持ちになれるのが良いラブコメ映画の条件のひとつ。でもそれだけではない、ラブコメ映画の魅力を再発見できる1冊だ。

文=川辺美希

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