“もう一度視聴したくなる” ミステリー小説?暴露系、心霊系、考察系——動画配信がテーマの連作短編集『この配信は終了しました』【書評】
PR 公開日:2025/5/22

『この配信は終了しました』(青本雪平/双葉社)は、動画配信者を主役に据えた連作形式のミステリーだ。YouTubeをはじめとする動画配信の世界では、暴露系、心霊系、考察系といった多彩なジャンルが存在する。本作では、そうしたジャンルごとに異なる事件が描かれており、どの物語も“情報の信憑性”と“視聴者の欲望”を鋭く描き出している。
本作がとりわけ新鮮なのは、動画配信という現代的な文化とミステリーとの相性の良さを存分に活かしている点だ。配信という営みは、突き詰めれば“いかに多くの人の関心を集めるか”に収束する。バズること、再生数を伸ばすことが最優先される世界では、真実かどうかよりも「面白いかどうか」のほうが価値を持つ。事実と虚構の境界があいまいになることで、そこには常に謎が生まれる。その謎のなかに、意外な真相や登場人物たちの秘めた過去が巧みに隠されているのが、本作の見どころだ。
なかでも印象深かったのは「考察系」と題された一編だ。考察系とは、未解決事件やフィクション作品をもとに配信者が自らの解釈を披露するジャンルである。視聴者が求めているのは“真実”ではなく、配信者というフィルターを通して再構成された“解釈”である。その構造自体が、ミステリーと極めて親和性が高い。
物語の舞台は、知名度も資金力も持つカリスマ経営者が設けた場だ。複数の考察系配信者が一堂に集められ、「ある事件」について自らの考察を披露するよう求められる。もっとも説得力のある考察を語った者には、賞金とプロモーションの機会が与えられる。名声と再生数を賭けた一種の“推理バトル”は、やがて真実を明らかにするクライマックスへとつながっていく。不確かな情報をもとに考察をもっともらしく語る配信者たちの姿は、現代の情報社会そのものを風刺しているようにも映る。
連作短編集としての完成度も高い。各話が独立して楽しめるだけでなく、読み進めるうちに全体の構図が浮かび上がってくる構成も見事だ。ラストを飾る「正義系」は、複数の動画が再生リストのように並び、やがて一つの事件へと収束していく。まったく関係なさそうに見える動画群が、読者の“視聴”を通じて驚くべき因果へとつながっていくのだ。読み終えた瞬間、思わず最初のページに戻って“もう一度視聴したくなる”感覚を味わわせてくれる。
配信と小説は異なるメディアであり、届け方もターゲットも本来は別のものだ。だが、どちらも人の知的好奇心や驚きを刺激し、「続きを知りたい」と思わせる力を持っている。本作はまさに、その共通点を最大限に活かした作品と言える。小説で配信を描く。そんな実験的な試みが、これほどまでにスリリングで現代的なミステリーを生み出すとは……。読み手の想像を軽やかに裏切ってくれる一冊だ。
文=宿木雪樹