「一気読み大賞」1位を獲得した『間宵の母』の続編が登場。おぞましくも、奇妙な痛快さが面白いホラー・ミステリー【書評】
PR 公開日:2025/7/25

トラウマ的な後味で読者を唸らせたミステリーホラー『間宵の母』の続編が、遂に登場した。『中にいる、おまえの中にいる』(歌野晶午/双葉社)は、どこかずっーーと薄ら寒い気味の悪さと、「奇妙な痛快さ」を感じられる一冊だ。
主人公、18歳の青年・蒼空(あお)は、悲惨な家庭環境から児童養護施設で育ち、両親への復讐だけを生きがいにしていたが、ある事件により重傷を負う。
意識を取り戻すと、孫娘に「寄生」していた稀代の悪女、間宵己代子(まよい・みよこ)の新しい「寄生先」にされ、「脳内で己代子と同居している」という奇妙で絶望的な状況に陥っていた。本作は、ここから始まる。
己代子は昭和18年生まれ。死後、孫娘の角膜に移植されたが、己代子の細胞が異常増殖した結果、孫娘の身体と意識を乗っ取ることに成功。「子どもの姿で頭脳は大人」という状況を逆手に、世間を手玉に取って生きていたという、人智を超えた悪人だ(殺人犯でもある)。
その彼女が、今度は蒼空の身体に宿ったのである。
しかし孫娘の時と違うのは、蒼空を意のままに操れないこと。脳内で蒼空に話しかけることしかできないのだ。この状況に、己代子も蒼空も疑問と不安を抱えたまま日々を過ごすことに。
蒼空は、いつか己代子に意識を乗っ取られてしまうのではないか。その日がいつ来るか分からない恐怖に怯える。己代子は己代子で、このままずっと蒼空の一部だとしたら、不自由極まりない生活しかできないことに懸念を覚えていた。
そこで二人は、己代子の寄生先を「移そう」と共謀する。蒼空と違い、自我が確立されていない子どもなら寄生した後に意識を乗っ取れるのではないかと己代子が提案したのは「弟の息子の子ども」である7歳の吾藍(あらん)。孫娘から蒼空に己代子が「移住」した過程を再現し、今度は蒼空から吾藍へと寄生先を変えようという作戦だ。
さっさと己代子から解放されたい蒼空と、長年抱えていた一族への復讐を遂げたい己代子との利害関係は一致し、二人は吾藍のもとへ向かうのだが……。
本作はヒトコワ寄りのホラーだと思う。
孫娘をはじめ、多くの人間の人生を奪っても罪悪感一つ抱かず、今なお蒼空として生き続けようとする己代子の身勝手な執念は、怖いを通り越し、おぞましいほどだ。
一方で蒼空も、両親への復讐心、それが叶わなかった絶望、行き場のない怒りを抱え、己代子いわく「修羅の妄執(もうしゅう)」を抱く。その激し過ぎる負のエネルギーが、後(のち)の恐ろしい展開に繋がっていく。
他にも、闇深い家庭環境で暮らす少女リアナや、その養父であるミツル、その妻、吾藍の両親など、作中の登場人物はほぼ、常識人に見えて、腹の中にドス黒い物を抱えている。
だがヒトコワだけでなく、本作は何とも言えない奇妙な魅力にも溢れていた。前作の黒幕の己代子が蒼空と手を組んで悪い人間たちと敵対し、蒼空を助ける老獪な味方ポジションになっているのは、奇妙に痛快だった。
蒼空と己代子は最大の敵同士でありながら、似た者同士でもあり、その脳内会話は漫才のように感じる時さえあった。
最大に奇妙な痛快さを感じられたのは、やはりラストだろう。この衝撃のためにも、読者諸君は絶対に、先に最後のページを開いてはいけない。
前作を読んだ人はもちろん、読んでいなくても楽しめる本作。「おそろしい」より「おぞましい」悪人たちの行く末を見届けてほしい。――最後に笑ったのは誰かを。
文=雨野裾