「このホラーがすごい!」1位作品の続編! 落ちる遺影、転がるこけし…ポルタ―ガイスト現象×ホラー×ミステリーを融合した快作が誕生【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/9/6

ポルターガイストの囚人
ポルターガイストの囚人上條一輝 / 東京創元社)

 創元ホラー長編賞を受賞したデビュー作『深淵のテレパス』(東京創元社)が、「このホラーがすごい! 2025年版」で1位を獲得するなど、一躍ホラー界の注目作家となった上條一輝さん。約1年ぶりの第2作『ポルターガイストの囚人』(同)は、ポルターガイストを題材にホラーとミステリーを高いレベルで融合させた作品になっている。怪現象に挑むのは、もちろん「あしや超常現象調査」。前作に登場した芦屋晴子と越野草太が、さらなる活躍を見せてくれる。

 東城彰吾は、かつて戦隊ヒーロー番組で人気が出たものの、今やすっかり落ちぶれた俳優。もうすぐ40歳になる彼は、父親の介護施設入所を機に、空き家になった実家に帰ってくる。母親がいないため、父とふたりで過ごしたこの家が、東城は子どもの頃から嫌いだった。知らない誰かがいるような不気味な気配──それは、家を離れて20年以上たった今も家屋にこびりついていた。

 引っ越してまもなく、東城はこの家で怪異に見舞われる。かたかたと音を立てる襖、落ちる遺影、突然消える電気。2階の部屋にあったはずのこけしが、ごとん、ごとんと階段を転がり落ちてくる場面なんて、思わず涙目になるほどの恐ろしさ。開始25ページでこの恐怖、本当に勘弁してほしい……。

advertisement

 憔悴する東城が頼ったのは、「あしや超常現象調査」のふたり。怪現象を調べるYouTubeチャンネルを運営しているが、彼らはオカルト肯定派でも否定派でもない。目の前で起きる現象を記録したうえで、中立的な立場で分析し、解決策を導き出すのがモットーだ。今回の調査においても、まずは工務店による住宅設備の点検・確認からスタート。異常がないとわかったうえで、機材を持ち込んで温度や電磁波、振動などを測定し、ポルターガイスト現象ではないかと仮説を立てていく。そこからの行動も、いかにも彼ららしい。「物が勝手に動いて困るなら、動きそうな物を捨ててしまえ」と処分するのだ。このように、あらゆる可能性を視野に入れ、検証を重ねてひとつずつ潰していくのが彼らの流儀。その過程をつぶさに描くことが、このシリーズ独自の面白さにつながっている。前作にも登場したオカルトマニアで能力者の犬井、現実主義の探偵・倉元、前回の事件のキーパーソン・桐山楓も調査に加わり、さまざまな角度から現象を解明することになる。

 だが、処分をしてもポルターガイスト現象は収まらない。それどころか、東城がさらなる危機に見舞われ、「あしや超常現象調査」の周辺にも不気味な影が忍び寄る。東城と「あしや超常現象調査」の越野、ふたりの視点で交互に語られる事態は、中盤以降どんどん緊迫感を増していく。一体、東城の身に何が起きているのか。鏡に映った人影の正体は誰なのか。やがて迎えるクライマックスでは、ハリウッドアクション大作ばりのダイナミックな展開も待っている。

 ホラーとしての骨格もしっかりしているが、印象に残ったのはミステリーとしての読みごたえ。驚きの仕掛けが用意され、騙される快感を存分に味わえる。読み終えてからもう一度再読すると、細やかに伏線がちりばめられていることに気づくはず。ホラー好きだけでなく、ミステリーファンにもぜひ手に取ってほしい。

 帯に〈「あしや超常現象調査」次作で完結〉と書かれているとおり、シリーズは三部作となるもよう。完結巻ではここまで描かれなかった芦屋晴子の過去も明かされるのだろうか。三部作を通した彼らの変化、成長にも注目したい。

文=野本由起

『夏にひんやり 怪談・ホラー特集』を読む!
『夏にひんやり 怪談・ホラー特集』を読む!

あわせて読みたい