土田晃之「勉強しなくてよかった」業界を生き残るための能力とは?昔と今のエンタメの違いを語る【『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』発売記念インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2025/9/12

 昭和100年となる今年、あの時代を振り返る本やテレビ番組などを頻繁に見かける。さまざまなジャンルに精通している土田晃之さんが「昭和なアイテム」について語った『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』(双葉社)もそのひとつ。

 ヒーローものやアニメ、おもちゃ、テレビ番組…懐かしいアイテムの連続に、「おお、これこれ!」と顔がほころぶ方もいることだろう。今、なぜ昭和が人気なのか? 出版を記念して土田さんにお話を聞いた。

『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』
『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』土田晃之/双葉社)

●今は昭和が「オシャレなアイテム」に

――今、特に若い世代に「昭和」が人気ですが、なぜだと思いますか?

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土田晃之(以下、土田):自分らにないものだからじゃないですか。たとえばフィルムカメラも人気ですけど、絶対スマホのほうが便利だし、なんか「そっちいくのはオシャレ」っていうのもあるんでしょう。旧車乗ってる人もいますけど、絶対今の車のほうがエアコン効くし、なんか「オシャレなアイテム」に見えてるんだと思います。

――リアル昭和人からすると、痛かったり臭かったり、なんか「圧」もある時代にも思いますが。

土田:僕もそうですね。今は街中でカツアゲされているヤツも殴られているヤツも見ませんから、やっぱり今のほうが「いい時代」なんだと思います。最近思うんですけど、僕らの時代はもっと賢い子とバカな子に差があって、バカな子は本当にバカだったんですけど、今は全体的にレベルが上がってますよね。ある程度みんなできるから、本当の落ちこぼれは少ない気がします。

 昔はバカがいっぱいいたからバカ学校も成り立っていましたけど、今はそのままだと経営が成り立たないからちょっとずつ賢くしていかないといけないんでしょうね。子どもも減ってきてるし。僕は埼玉育ちなんですけど、埼玉で有名なバカ学校を調べたらなくなっていたりして、なかなかだなと思って。

――「こいつバカだから」って平気で言える時代でしたよね。

土田:それがなくなったのもいいことですよね。きっとそういう悪い影響はテレビにあったのかもしれないから、今はテレビも言葉選びしなきゃいけない時代で、それも込みでみんなよくなってるんじゃないですかね。テレビはつまらないですけど。

――そうですね。常々いい落とし所はないものかなって思うんですが。

土田:ないですね。

――即答!

土田:インターネットの普及だと思いますが、誰だかわからない、力を持ってない人の意見が通る世の中になったのが、僕は一番でかいかなと思っています。前は権力がちゃんとある人、頑張って上に行った人の声が大きかったですけど、今は仕事もしてないかもしれないどこの誰だかもわからない人の声でもまかり通るから、無理ですね。相手は揚げ足取りに来ていて、それでもいいように作らなきゃいけなくなるから、つまらなくなるんだなと思います。

――昔のエンタメはいわゆる「プロの世界」でしたもんね。

土田:出ている人も作っている人もプロでしたね。視聴者の意見はあるけど、「いや、俺たちが面白いと思う番組を作る」「俺らの笑いがわかるならどうぞ」みたいな、多分テリー伊藤さんみたいなタイプが多かったと思うんですよ。今はなんか、視聴者が審査員気分でいるというか、作っている方も視聴者ばかり見てますよね。ほんと「文句あるならやってみろ」って話ですよね。M-1のネタにごちゃごちゃ言うなら、「ネタ作ってみろよ。舞台でウケたこともスベったこともない奴が、ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ」って思います。

――本当にそうですよね。

土田:ただ昭和もそういうのありましたけどね。巨人の原が三振すると「なんであの球打てねーんだよ」ってテレビに酔っ払ったおっさんが文句言ってましたから。子どもの自分は「お前、140キロの球打てんのかよ」って思ってましたけどね(笑)。

 でもそんなおっさんの言葉は、世の中に発信してないじゃないですか。今はそれを世の中に発信できちゃうのが、大きいんだろうと思います。これだけ人口がいる中で、そういう発信している人はごく一部だとは思いますけど、めんどくさいなと思います。芸能界もこんな感じになるんだったら、最初からこの世界は来なかったですね。女にモテたいし、金ももらいたいからこの世界に来てるのに、話違うじゃないかって(笑)。

――あの頃は「時代の勢い」みたいなものもあったんでしょうね。

土田:そうですね。それは一番ですよね。高度成長期とかバブルとか、お金もあったし、なんかみんながイケイケドンドンな感じでしたからね。あれに勝るものは多分なくて、社会が勢いないのも問題なのかもしれない。ただ僕らはバブルの恩恵を受けてませんけどね。僕がお笑い始めた頃は、タクシーが捕まらないから1万円札を振ってタクシー止めたとかいわれてたバブルの頃ですけど、初月給500円でしたから。月収なのに、相方とわけると1人250円みたいな(笑)。

――土田さん自身はそれこそ今のような風潮に、どうチューニングしていきましたか?

土田:そういうのってあえて振り返らないとわからないんですよね。6、7年前のテレビなんか見ると、「まだこの時こんなこと言ってんだ」ってのがあったりしますから。きっと自分がもっと若かったら承認欲求もあって「もっと僕はこういうことできるんだ」「もっとこういう面白いことやりたい」っていろいろ戦ったかもしれないですけど、もう50歳すぎてますからね(笑)。

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