母親の過干渉、父親の死への罪悪感——。幸せを諦めた少女と、一途な少年の恋模様。切なくも尊い純愛小説【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/9/19

朝がくるたび、また君に「恋」をする。
朝がくるたび、また君に「恋」をする。(著:望月くらげ、イラスト:fjsmu/双葉社)

 10代向けのライト文芸を展開する「双葉文庫パステルNOVEL」が、創刊から半年を迎えた。青春のきらめきと恋をモチーフに、等身大のみずみずしい感情を紡ぐレーベルの9月の新刊として刊行されたのが、望月くらげ氏の『朝がくるたび、また君に「恋」をする。』である。

 高校1年生の涼風は小学6年生のときに父親を事故で亡くし、以後母親の厳しい監視下に置かれている。過干渉な母親は娘の行動のすべてを把握したがり、部活すらさせてもらえない。全く自由がない状況だが、父親が死んだのも母親がおかしくなったのも自分が原因だからと、涼風はすべてを諦めていた。

 ところがある日、涼風は特進クラスの五十嵐君から突如告白される。五十嵐君は成績が学年1位と優秀で、普通クラスにいる涼風とは全く接点がない。父の死に対する罪悪感を抱えた涼風は、自分には幸せになる資格がないし、大切な人はみな不幸になるからと断った。ところが彼は諦めることはなく、今度は生徒会の仕事を手伝ってほしいと頼み込む。母親から許可をもらい、涼風はほんの少しの自由を手に入れて、五十嵐君と一緒に放課後を過ごすようになるのだが……。

 人間関係では、自分の気持ちだけでなく、他人の気持ちとも向き合わざるを得ない。ちょっとしたことですれ違ったり悩んだりはするけれども、誰かと一緒に過ごす時間は尊く、その思い出は何よりの宝物になる。人と深く関わることを避けてきた涼風の身に起こる変化と成長は、学校や家族との人間関係で悩む読者にも勇気を分けてくれるだろう。現実世界がしんどいからこそ、小説やフィクションを通じて心が救われ、前に進むことができる。物語の力と魅力を実感できる一冊である。

 五十嵐君との出会いをきっかけに、涼風を取り巻く世界は大きく変わり始める。生徒会の手伝いや、勉強を教えてもらう時間など、二人で過ごす学生生活の何気ない、そして愛おしい時間が丁寧に綴られ、ページをめくるたびに甘酸っぱくも幸せな気持ちが湧いてくる。父の死という重すぎる十字架を背負った不器用な少女と、どこまでも一途で自分の思いをまっすぐにぶつける少年。ただの友達から始まり、悩みながらも少しずつ距離を近づけていく二人の姿は、多くの人の共感を呼ぶだろう。

 作中では日記や写真、アルバムなどの小道具が効果的に使われているのも印象的だ。とりわけ日々の行動を記録したり、胸に浮かんだ思いを文字にして残しておける日記というアイテムがもつ魅力と役割を再確認させられる。

 物語は等身大の学生生活と恋模様を中心に展開されるが、後半ではがらりと雰囲気が変わり、ようやく幸せをつかみかけた涼風の身に痛ましい悲劇が訪れる。過酷な運命に晒されながら、それでも手を取り合って前に進もうとする二人の絆と想いの強さが浮き彫りとなる、切なくも尊い純愛小説だ。

文=嵯峨景子

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