美しき変人文豪と毒舌な助手中学生が、死者を運ぶ幽霊列車で出会ったのは? 大正ロマン溢れる博多に巣食う怪異を凸凹バディが追うホラーミステリー続編が登場【書評】
PR 公開日:2025/10/31

見鬼の青年とオカルト嫌いな公務員のバディが活躍する『夜行堂奇譚』でデビューして以来、耽美な文体と魅力的なキャラクター、民俗学的なアプローチで読者を魅了し続ける嗣人氏。このたび、そんな嗣人氏の最新刊として、大正時代の博多を舞台にしたバディホラー『文豪は鬼子と綴る』の第2弾『文豪は鬼子と綴る 弐 幻想列車編』が刊行された。
『文豪は鬼子と綴る』は、謎の人気作家・香月蓮と、優等生だが毒舌の中学生・瀬戸春彦というふたりが活躍するホラーミステリー。春彦は、香月の担当編集者である父の頼みをきっかけに、長年屋敷に引きこもって執筆する香月に出会う。偏屈で有名な香月だったが、物怖じしない春彦を気に入って、小説のネタ探しの助手に任命。シリーズ第1弾では、ふたりは怪異の仕業と噂される連続殺人事件と、人の死を予言する歩き巫女の姉妹をめぐる謎を追った。
『文豪は鬼子と綴る 弐 幻想列車編』は、香月に不可思議な出来事のネタを探すよう命を受けた春彦が、真夜中に死者を乗せて走るという幻の列車の情報を得るところから始まる。ふたりは幽霊列車への好奇心と、「死んだあの人に会いたい」という思いから、情報提供者である作家志望の新聞記者・杉山とともに、霧に包まれた幽霊列車に乗り込む。豪華ながらどこか歪な車両には、さまざまな事情を抱えた不思議な乗客のほか、炭鉱王に嫁いだ麗しき華族として博多を騒がす歌人・柳原白蓮も乗り合わせていた。幽霊列車はどこへ向かうのか、そして香月と春彦は故人に会い、元の世界へ戻れるのか――。
前作に続き、活気あふれる大正時代の博多の空気と怪異が溶け合う、恐ろしくも耽美な物語世界が楽しい。黄泉の国と現世のあわいを走る列車の車窓から見える景色や、豪華絢爛な車内の様子も美しく、読者は未体験の幻想的な旅情を味わえる。前作は、遊郭で男たちに残酷な制裁が下されたが、それと比較して今作は血の香りは控えめで、幽玄の美に満ちている。乗客である軍人・越智と春彦のふれあいや、波乱を生きる白蓮の決断も切なく、激動の時代ならではの人間ドラマのセンチメントが際立っている。
しかし本作の魅力はやはり、自由すぎる香月と、青臭いニヒルを抱える春彦の軽妙なやりとりと、その関係だ。血の宿命を背負い、引きこもり生活ゆえに虚弱な香月と、西洋人のような見た目で生まれたことから「鬼子」と言われ、亡くなった兄の名を付けられたゆえに親への複雑な思いを抱える春彦。世間知らずの香月は相手の心情を推し量った物言いができず、春彦に平然と無理難題を押し付ける。そして春彦は、いくら香月が世間に敬われていようと、彼に遠慮をしない。しかし、ともに生まれながら背負うものがあるふたりは、自然とお互いの痛みに寄り添っている。対立ばかりしているようで、根っこの倫理観では共通するふたりだからこそ、大事な場面では支え合い、手ごわい謎に立ち向かっていく。
第1作では謎だった香月の正体が明らかになっていくのも、本作の見どころだ。新聞記者に似合わない素朴さが魅力の杉山も、今後ふたりの謎解きを手助けする重要人物になりそうで、杉山の行く末やその正体も楽しみだ。香月の家族に関する謎や、若き春彦がまだ知らない愛に関する答えなど、まだまだ気になることばかり。シリーズの続編が楽しみだ。
文=川辺美希






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