選択的夫婦別姓も同性婚も認められないこの国は、一体なにに怯えているのか。結婚をめぐる問題をエンターテインメントでくるんだ話題作【古内一絵インタビュー】
更新日:2024/11/8

老舗ホテルでアフタヌーンティーの企画を担当する涼音を主人公に、異なる立場の登場人物たちの葛藤や成長を描いた『最高のアフタヌーンティーの作り方』(古内一絵/中央公論新社)。その続編にあたる『最高のウエディングケーキの作り方』(古内一絵/中央公論新社)が、約3年半ぶりに刊行された。今回描かれるのは、夫婦別姓や同性婚など結婚をめぐるホットなテーマ。今こそ話し合うべき話題を、極上のエンターテインメント小説に仕立て上げた古内一絵さんに、作品に込めた思いをうかがった。
(取材・文=野本由起 撮影=島本絵梨佳)
夫婦同姓を義務づけているのは日本だけ
――2021年に刊行された『最高のアフタヌーンティーの作り方』は、老舗ホテルのアフタヌーンティーチームを舞台に、そこで働く人々や常連客の人間模様を描いた作品でした。発売後、どのような反響がありましたか?
古内一絵さん(以下、古内):SNSでは、「ひとりでもアフタヌーンティーを楽しんでいいんだ」という反応がありました。今はホテル椿山荘をはじめ、おひとりの予約を受け付けているホテルも増えていますよね。「この本を読んで、勇気を出して初めてソロアフタヌーンティーをしました」とTwitter(現X)に、この本とアフタヌーンティーの写真を投稿してくださる方も多くて、とてもうれしかったです。
――前作は、女性の社会進出とスイーツの歴史を重ねて描いていました。こうした視点も、とても面白く感じました。
古内:平成は、IT革命と同時にスイーツ革命も起きた時代です。ティラミスをはじめ、それまでのケーキとは違う本場のヨーロッパ菓子が日本に入ってきました。ちょうど女性が社会に進出して経済力を持っていった時期と重なり、「自分が就職した時を思い出して共感した」という感想もいただきました。

――『最高のアフタヌーンティーの作り方』を執筆していた頃から、続編の構想があったのでしょうか。
古内:書いている時はありませんでした。ただ、書き終えて本が刊行されるくらいになると、「あ、これは続きを書けるな」と思うんです。シリーズものは大体そうですね。

今回の場合、『最高のアフタヌーンティーの作り方』の打ち上げの席で、担当編集さんに「続編を書けます。今度は『最高のウエディングケーキの作り方』で、テーマは夫婦別姓。ただ、誰のためにウエディングケーキを作るか、今は秘密です」とお話ししたのを覚えています。
――前作が刊行された2021年当時は、今ほど選択的夫婦別姓制度が話題になっていなかったのではないかと思います。最近、NHK連続テレビ小説『虎に翼』でも夫婦別姓や同性婚を扱い注目を集めていますし、タイムリーな作品になりましたね。
古内:実を言えば、3作品の連載が重なってしまったので、『最高のウエディングケーキの作り方』は連載開始を1年待っていただきました。おかげで時代が追いついてきて。当初はここまで夫婦別姓が話題になるとは思っていなかったので、びっくりしました。
――古内さんは、以前から問題意識を抱いていたのでしょうか。
古内:(夫婦同姓が義務づけられていることについて)いやー、バカバカしいな、と。私も驚いたのですが、結婚した夫婦が同姓を名乗ることを義務づけているのは、現在世界で日本しかないんですね。俄然、これは書くべきだと思いました。
その後、担当編集さんにお願いして夫婦別姓のアンケートを取っていただいたんですね。性別も年齢も違う十数名にアンケートを取り、私も会う人会う人に夫婦別姓について意見を伺いました。でも、「世界で唯一、日本だけが選択的夫婦別姓制度を導入していないことを知っていましたか?」と聞いたところ、誰ひとりとして知らなかった。それが衝撃的でしたね。
――他には、どんな回答がありましたか?
古内:「夫婦別姓についてどう思われますか?」という質問をすると、皆さん大体賛成意見。でも、「ご自分が結婚された時、どちらの姓にするか話し合いましたか?」と聞くと、ほとんど話し合っていませんでした。ある程度の年齢の方は「このアンケートに答えるまで、そんなことは考えもしませんでした」「女性が改姓するのが当たり前だと思っていたので、話し合おうとも思いませんでした」という答えが多かったですね。若い世代は一応話し合うものの、女性は「特別な理由がないなら私が変えるしかなかった」、男性は「話し合いはしたものの、僕が変えるつもりはまったくなかった」という回答が見られ、女性は諦めムードでした。
逆に、40代女性からは「結婚が遅かったので、改姓してよかった。今までは帰省や同窓会のたびに『まだ結婚しないの?』と言われるのが嫌だったから、改姓してホッとした」という声も。他にも、「実家との折り合いが悪く、夫の姓になれてよかった」というご年配の女性もいました。
――本当に人それぞれですね。
古内:だからこそ、選択制にすればいいと思うんですよね。変えたくない人は変えなければいいし、変えたい人は変えればいい。あまりにもバカバカしいと思ったので、もっと多くの方にこの問題を知っていただきたくて。それをエンターテインメントとして、楽しく読める小説にしたいと思いました。