人気和食料理人・笠原将弘氏がコロナ禍に「家族を喜ばせた料理」を公開! これは試してみるしかない
公開日:2021/10/22
「自由でいい。気楽でいい。台所は遊び場だ!」
表紙を開いたところにある、著者からのメッセージが目にとまった。
思えば、外食という選択肢がいつでも選べるときには、代り映えのしない自分の料理でも、家族はおいしいと言って食べてくれていた。それが気軽に外食ができないとなると、家族も自分もいつもの味に飽き飽きしてくる。長引いたコロナ禍の自粛生活で、外食が制限され、好きだったはずの「料理をすること」に、いつしかしんどさを感じるようになっていたのだ。
メニューの目先を変えようと、レシピ検索をしてみたり、YouTubeで料理系の動画を見てみたり、書店でレシピ本をめくってみたりした。そんなとき本書『笠原将弘のまかないみたいな自宅飯』(笠原将弘/主婦の友社)に出合った。表紙には豚肉のしょうが焼き(と思われる)というド定番なおかずがドーンと載っている。著者はテレビでもおなじみの和食料理人の笠原将弘氏だ。笠原氏の自宅飯ということは、お店で出す料理とは違う、笠原氏が自宅で食べている料理が紹介されているのか。帯には「料理人の食卓」「真似したくなる家族の味」と書かれている。
タイトルに「まかないみたいな」とあるから、レシピには料理人としての知恵や工夫がほどこされているのだろう。さて、どんな料理を教えてくれるの?
「はじめに」を読むと、コロナ以前は、料理人として多忙で「家ではほとんど料理はしない」日々だったとある。それが、コロナ禍で生活スタイルが一変し、家で毎日料理をするように。自分の食べたいものや家族のリクエストに応じて、料理のジャンルに縛られずに自由に作って楽しんでいたそうだ。そんななかから生まれたレシピ、ということか。

わが家にある材料と調味料で作れる料理はあるかしら? と、ページをパラパラめくってみると、「豆苗とみょうがの塩ごぶあえ」(p.18)を発見。キッチンに2耗作目の豆苗がそろそろ収穫できそうだし、冷蔵庫にはみょうががまだあったはずだし、塩こぶは常備している。「簡単えびチリとえびマヨ」(p.22)は、えびさえ入手すればあとはいける。このレシピには、笠原氏のお子さんたちの好みがえびチリ派とえびマヨ派に分かれるため、両方を一度に調理してしまおうと考案したとのエピソードが添えられていて、笠原氏の家族思いの一面が垣間見え、ほほえましく読んだ。

笠原氏の家庭人としての顔がのぞけるといえばほかにも、「辛み手羽先」(p.24)など家族で行った外食で気に入った料理の再現レシピ(もちろんアレンジ入り)、息子さんの魚嫌い克服をねらった「たらのムニエル」(p.36)、娘さんが好きな「果物のカプレーゼ」(p.45)など、笠原氏が家族を喜ばせようと工夫をこらしたレシピが並んでいる。ところどころに挿し込まれるエピソードには、それら料理の魅力を増幅させる効果もあるようだ。



というわけで、本書を入手し、手始めに「簡単えびチリとえびマヨ」と「豆苗とみょうがの塩ごぶあえ」を作ってみたので、家族の感想とともに載せておこう。
「えびチリとえびマヨのえびって揚げなくてもイケるんだね。ソースでつけ合わせのレタスまでおいしく食べられた」(息子・中学生)、「豆苗の新しい食べ方が増えてよかった。うちでは炒め物かみそ汁に入れるのが定番だったから」(夫・50代)とのこと。

本に載っている献立の組み合わせとは違うけれど、料理は「自由でいい。気楽でいい」の精神に則って、ラクに作って、おいしくいただいた。
コロナが収束して、気軽に外食を楽しめるといいけれど、同時に家で作った料理を家族で囲んで「おいしいね!」と笑い合いたい。この本がそれを再確認させてくれた。
文=矢口さわ