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人類の深奥に秘められた記憶

人類の深奥に秘められた記憶

人類の深奥に秘められた記憶

作家
モアメド・ムブガル・サール
野崎歓
出版社
集英社
発売日
2023-10-26
ISBN
9784087735253
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人類の深奥に秘められた記憶 / 感想・レビュー

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buchipanda3

「偶然とは未知の運命、見えないインクで書かれた運命でしかない」。人類、深奥と堅そうな題名だが、読み始めるとすぐに小説としての面白さに惹き付けられ夢中になって頁を捲った。色々な要素が盛り込まれ、文学批評論から人種差別、ポストコロニアル等が含まれるが、むしろそういったカテゴライズ化を嘲笑うかのように大胆な構成で一つの独特な物語を創り上げていた。そこには批判でも皮肉でもなくむしろ情熱が見えた。ただ突き進むのではなく真摯かつ柔軟な遊び心さえも。それは過去を超えるべく著者が求めた創作の運命が示したものかもしれない。

2023/12/27

どんぐり

ボラーニョの小説を彷彿とさせる作家探しの物語。1938年にパリで出版されたセネガル人の作家エリマンが書いた『人でなしの迷宮』。ブラックアフリカの黒人による最初の真正な傑作といわれたが、その小説は、批評家から剽窃の疑いがかけられ、北フランスで失踪した作家とともに忘れられた。小説の構造は、1980年代にエリマンを探す若い作家ジェガーヌ、母グモのシガ・Dの証言、日記や記録、マンゴーの木の下でエリマンを待つ母親モッサン、『人でなしの迷宮』を批判した書評家たちの死と呪術など、いくつもの物語が積み重なっていく。→

2024/03/11

藤月はな(灯れ松明の火)

小説家になったが、デビュー作の反響が芳しくなく、次回作に悩むセネガル人、ジェガーヌ。彼は同じセネガル人作家で毀誉褒貶のある作家、エリマンの『人でなしの迷宮』にのめり込む。やがて彼と血縁関係のある者と接触し、当時の事を探っていくが・・・。エリマンの生まれとその家族との関係性、エリマンへ下された文学界の評価も、黒魔術による評論家殺しの疑いも結局は西欧人視点でしかなく、エリマンの意志も小説も無視されている。まさに「群盲、象をなぞる」。ジュガーヌを主人公に取れば、ビスク・ド・ロマンのよう。しかし、その〆は独特だ。

2024/01/04

たま

セネガル出身の作家ジェガーヌが同郷の作家エリマンの『人でなしの迷宮』を読んで衝撃を受け彼を知ろうとする。エリマンは大戦前に発表したこの作品で盗作を非難され行方不明のため、先輩作家シガ・Dからエリマンを直接知る人びとの証言を伝え聞くことになる。シガの父である呪術師の「土俗的」回想、戦前にパリでエリマンの作品を出版したユダヤ人、戦後ブエノスアイレスの文学サロンでエリマンと出会った文学者などが織りなす歴史的地理的広がりが作品の魅力となっている。何重もの伝聞で気が抜けない読書だが語りは巧みで飽きさせない。⇒

2024/01/24

Sam

幻の作家を追いかける若き小説家の物語。安易な感想を漏らすことを躊躇わせるような作品で、ついその出自(セネガル)や若さ(31歳)といった作者の属性に目が行きがちだが、作品そのものに正面から向き合ってその素晴らしさを感じないといけないのだろう。提示される様々なテーマやその瑞々しい文体、特異な表現手法に目を惹きつけられるが、加えてこれほどのリーダビリティや読み手を惹きつけるストーリーの強度を併せ持った作品には滅多に出会えないのではないか。前年度のゴンクール賞作品(「異常」)が霞んでしまうほどの作品だと思った。

2023/12/22

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