出久根達郎の古本屋小説集 (ちくま文庫 て-10-5)
出久根達郎の古本屋小説集 (ちくま文庫 て-10-5) / 感想・レビュー
KAZOO
出久根さんの古本屋の関する小説をまとめたもので、今までの作品集のなかからピックアップされたものが多いように感じました。やはり読んでいて懐かしいものが多く楽しめました。最近は、昔ながらの古本屋はなくなってしまい、残念な感じがします。小説のようなあるいはエッセイのような感じのものが多く、現実なのか虚構なのかわからなくなってしまいます。それが出久根さんの意図しているところなのかもしれません。
2024/03/08
tamami
溜まりに溜まった本の終活を、などと考えていたら著者の名前に引っ掛かるものを感じ手に取る。著者出久根達郎さんの、古本に題を取った小説集。80年代、90年代の作品が多く、昭和の雰囲気を強く漂わせている。単に古書店の店主とお客というだけではなく、様々な人情の機微を散りばめて物語は展開する。意外な結末もあり、少し筋が見えにくい小説もあり、紙の本がまだ本として存在感を示していた時代の、幻灯の映像を見ているような思いに囚われる。出典元の作品集に著者の『漱石を売る』が長年の積ん読本の中にあり、心に懸かった訳が知られた。
2023/12/29
pirokichi
中学卒業後集団就職で築地の古書店に就職。その後29歳で独立し、高円寺で古本屋を開業。そのかたわら作家デビュー。本書はそんな出久根達郎さんの、古本屋に纏わる私小説のような随筆のような作品集。著者は幼少期より本が大好きで、理屈抜きで古本屋という商売が好き。なので、本と店を訪れる人たちへの愛情が作品から感じられるのがいい。当たり前だけど、一冊一冊の本には物語があり、人それぞれの思いが付着しているんだなあ。「饅頭本」なんて知らなかった。全23篇の中では『背広』、『東京の蟻』、『雪』、『無明の蝶』が特に好きだった。
2023/12/14
wasabi
出久根さんの本に触れ、また講演でお会いして早18年が過ぎる。古本屋にまつわる小説も数多読んできたが、氏の生業が題材であるだけに虚構なのか実録なのか判じかねることしきり。極めて日常的な話の流れからして体験に基づくモノなのだろう。いずれにせよ、どれほどの儲けがあるのやら、帳場であれほど暇な稼業でよく食べていけるなと、失礼ながらいつも思う。まあ氏は作家、それも直木賞作家と二足の草鞋で心配には及ばぬだろうが。されど、受賞までの20年は古本屋一本だからね。いずれにせよ今回も素敵な日本語を数多く教えていただきました。
2024/01/10
フリウリ
古書店を舞台にした小説ではあるけれど、決して万人受けするようなほのぼのとした話題ではなく、自分の好きな本を売買しなければならない、そして時には人の遺産を酷薄に換金しなければならないといった、古書店を営む業の深さが粘っこく描かれていることが、印象的でした。古書は、人の手から別の人の手に渡るごとに価値を生じ、それによって古書業界が成り立っていることは、おもしろいような、しかし怖いような気がします。古書は好きですが、古書店を営むことはとても無理、と思いました。7
2024/04/08
感想・レビューをもっと見る