読者の心に響く「ドキュメントコミック」は編集者も育てる――その制作の裏側は…【編集長コラム第6回】

アニメ・マンガ

2018/5/9

 ダ・ヴィンチニュースは、雑誌読者のことを一番よく知っている各雑誌の「編集長コラム」企画をスタートしました! 今回ご登場いただくのは『BE・LOVE』の岩間編集長です。

 皆さん、こんにちは。GWは楽しめましたか? 遊び疲れてしまったという方(それもまたうらやましい!)、心の栄養「マンガ」で英気を養ってください。

 心の栄養といえば、こちらもそうです「原画展」! 心よりも目の保養かもしれませんが…、東京、大阪と大好評をいただいた原画展「ちはやふるの世界」が、いよいよ最終地・名古屋に巡回します。5月21日まで、名古屋栄三越にて開催です。末次由紀先生の圧巻の原画を間近で見られるまたとない機会ですので、名古屋近辺の方もそうでない方も、ぜひいらしてください。何度見ても「眼福」を得られる展示ですよ!(最新38巻の表紙原画を名古屋会場で初出ししますよ♡)



展示の原画はほぼすべて撮影OK。一部展示は額のガラスを外すなどで話題です。フォトスポットも2か所あり、カメラやスマホ必携の原画展です。

 さて、最新「BE・LOVE」10号より、新連載『オオカミの住処(すみか)』が始まりました。もう読んでくださった読者の皆さん、ありがとうございます。まだの方、イチから楽しめる新連載なので、この機会に「BE・LOVE」を手に取っていただければ嬉しいです。

千早&金魚のコンビが表紙で躍動!「BE・LOVE」10号は、絶賛発売中です。

『オオカミの住処』は、ヒロインと見目麗しい従弟が、手を取り合って生きていく物語、になりそうな気配です。1話目から目の離せない展開が続き、ラストのコマのモノローグは、今後の「混乱」を予想させる意味深なセリフで締められています。「BE・LOVE」ではこれまで『春夏秋冬Days』『さんかく屋根街アパート』と、日常ドラマを描いてきた藤末先生ですが、今回は「日常の中の非日常」にスケールアップしそうで、まさに藤末さくら先生の新境地といえる作品になりそうです。どうぞご期待ください!

主要キャラクターであるヒロインの従弟が、日常を変容させる役割となりそう。目が離せません!

 さて、最新情報はここまでにして、今回のテーマに移ります。今回は「ドキュメントコミック」をテーマに書いてみたいと思います。
 前号(9号)に掲載した読み切り『水晶の音』。この作品は、作者の斉藤倫先生が数年前に出会い、その演奏と歩んできた人生に魅かれたという、若きヴァイオリニスト・式町水晶さんを描いたドキュメントコミックです。幼いころ、脳性マヒと診断を受けた式町さんに、お母様がその克服の手段としてヴァイオリンに出会うというお話です。

『水晶の音』は単体の電子コミックとして好評配信中です。詳細は各電子書店HPで検索を。

 私自身、ドキュメンタリーが好きで(好きなテレビ番組は「ドキュメント72時間」「ザ・ノンフィクション」「NNNドキュメント」)、編集者としても実在の方を描いた漫画作品を、何本も担当してきました。

 ドキュメントコミックは、編集者を育てる仕事です。企画が浮かんだら、取材対象者に漫画に描いていいかどうかの交渉をし、並行してその企画をベストのかたちで描いてくださる漫画家さんを探します。そして取材を繰り返し、漫画家さんが作るストーリーに取材で得たことを反映させていく──その過程で企画力、行動力、交渉力が鍛えられます。そして漫画家さんにおいても情報の咀嚼力や、ストーリーの構成力が磨かれます。特に若手の編集者や、若手の漫画家さんには、飛躍のきっかけにもなり得ます。

 ただ、裏を返せば、読み切り1作に連載と同程度の手間ヒマがかかる場合があり、編集長としてはおいそれとGoを出せない、というデメリットもあります。

 そんなこともあり、私が編集長になって6年以上、あまり積極的にはドキュメントコミックを掲載していませんでしたが、今回の『水晶の音』は、久々に掲載したいという気持ちを強く持ちました。

 その理由は2つ。まず、作者の斉藤倫先生が式町さんの人生と音楽に惚れこんでいたこと。漫画家さん自身が積極的に描きたい(それも斉藤先生には式町さんに対して積年の思いがあった)という気持ちがあることは、作品にとって絶対のメリットとして働きます。そしてもうひとつは、私自身も昨夏、式町さんのコンサートにお邪魔して、その躍動感あふれるステージアクトに驚きと発見と希望を見たこと、です。式町さんの21年間の人生には、式町さんしか体験し得なかったドラマが、ギュウギュウに詰まっていたので、これは漫画というわかりやすい媒体で、多くの方に伝えたい、と思ったわけです。

水晶さんが生後間もない命と診断されたところから、物語は始まります。お母様の前向きな姿勢が印象的です。
©斉藤倫/講談社 BE・LOVE

 フィクションであれノンフィクションであれ、困難もしくは切実な状況から幸せへと向かう道を、主人公が具体的な行動で示すことが、漫画の面白さにつながります。いわゆる心の浄化=カタルシスと呼ばれるものです。そして、新しい発見があること。この2つが、式町さんの人生の真ん中にあったことを知り、ぜひ「BE・LOVE」の読者の皆さんに知ってほしい!となったわけです。
(参考:「カタルシス」は広辞苑では次のように説明されています。「一般に悲劇などに刺激されて喜怒哀楽を強く感じることによって、心中のわだかまりやしこりが除去されること」)

 そういえば、このコラムを書いていて思い出したのですが、個人的にはドキュメントコミックと言えば、東京の町田市に縁があるようです。昨夏、式町さんのコンサートが東京の町田で開かれたので、その前に、同じく町田の郊外にあるラーメン店に立ち寄りました。そこは「雷文」という、名物女将とその息子さんが切り盛りしている小さなお店です。実はこのお店の女将・宇都宮節子さんの半生を「BE・LOVE」で漫画にさせていただいたことがきっかけで、今でもお付き合いを続けていただいています(最近あまり伺えず…)。もう13年前の読み切り漫画なので、覚えている読者さんがいたら、握手をしにいきたいくらいですが…。

2005年「BE・LOVE」10号掲載『かくし味は愛~わたしのラーメン道~』。(作:福井美穂子)

 この漫画は、女将さんが最愛のご家族を亡くした深い悲しみから立ち上がり、ラーメン店を軌道に乗せるという物語です。当然ですが事実をベースに描きますので、プライベートな部分にもかなり踏み込む必要がありました。ですので、私はできる限り女将さんと真摯に向き合い、漫画をひとりでも沢山の方に読んでもらいたい!という思いで、取材をさせていただいたことを覚えています。具体的には、とにかくラーメンを食べました。ラーメンは女将さんの人生を凝縮したもの。それを食べずには取材はできませんし、してはいけない、と思って食べました。「雷門」の塩ラーメンは、飽きのこない絶品なので、何度食べてもそのおいしさは変わりませんでした。そして、雑誌掲載時には、顔の広い女将さんと一緒に、町田市内の書店さんや市役所などを巡りました。私たちが書店さんにご挨拶に伺うのは、たいてい単行本が出た時なので、雑誌掲載時の書店訪問は当時でも(今でも)珍しかったのですが、女将さんの人生を知ってほしい、という思いが強く、草の根とも言えるこのアクションはある意味自然な流れでした。

 そして昨年、久々に「雷門」にお邪魔した時に、女将さんから漫画の思い出話をいただき、今でも漫画化を前向きにとらえてくださっていることにホッとしました。

「雷文」の漫画をはじめとするドキュメントコミックを担当して学んだことは、「取材させてもらえば、もう終わり」では決してなく、取材対象となる方の人生を漫画にするというかたちでお預かりする以上は、取材中も取材後も、そして作品ができ上がって掲載してからも、大切にすべきものだということ。雑誌掲載は時限的なものでも、その方の人生はその後もずっと続くわけなので、そこに対しての想像力とリスペクトがないといけないジャンルだと思います。

 ドキュメントコミック『水晶の音』。わずか42ページの中に、斉藤倫先生が、式町水晶さんとお母様の思いを全力で表現しました。しかし、すべてを描くには紙幅が足りず、斉藤先生の頭の中には、まだまだ描きたいことがあるようで…!? それは、今後のお楽しみとしましょう。

 いずれにせよ、実在の方を漫画として描く「ドキュメントコミック」。編集部と描き手の覚悟や姿勢が問われるジャンルですが、だからこそ、読者の皆さんの心に響くものがあるはずです。また機会がありましたら、お届けしていきたいと思っています。

 最後に、毎回恒例(?)の本の紹介コーナーです。今回は「ドキュメントコミック」がテーマでしたので、限りなくドキュメントに近いであろう、かつ発見に満ちていたフィクションを挙げてみます。

『本のエンドロール』(安藤裕介:著 講談社:刊)。
 あとがきを見てびっくり。「BE・LOVE」や単行本の漫画原稿製版をすべてお願いしている豊国印刷さんがメインで取材協力をしているのです! これは読まねばと手にしたのですが、印刷の現場で起きていることは、編集歴25年の私でもまだまだ知らないことばかりだった!と発見の連続でした。本を世に出すためには、こだわりのある人間たちのリレーを完遂させないといけないなのだと、改めて認識した次第です。もちろん、出版業界の知識や興味がなくても、リアルなお仕事物語として充分に楽しめます。そしてラストにはきちんとカタルシスも…! オススメです。

主要人物の中で、一番深い苦悩を抱える野末というキャラから、目が離せませんでした。

 ということで、今回もお付き合いありがとうございました。「BE・LOVE」の次号(11号)は、5月15日発売。「BE・LOVE」の定番『ギャルボーイ!』が連載30周年という記念で、十数年ぶりに表紙を飾ります。ご期待ください!!


岩間秀和(いわまひでかず)編集長
1993年講談社入社以来、BE・LOVEひと筋。2012年2月より編集長に。
BE・LOVE編集部では、新・想像系コミック誌「ITAN」も編集しています。

▶『BE・LOVE』公式サイトはこちら

【連載バックナンバー】
第1回:『ちはやふる』に続け! 創刊37年『BE・LOVE』編集部が今求めている女性向けマンガは?
第2回:漫画編集者の仕事は“作品の伴走をする”こと――『BE・LOVE』編集長が語るその裏側
第3回:『たそがれたかこ』『傘寿まり子』…“高年齢ヒロイン”作品が好調のワケ
第4回:リアルな漫画誌編集長の一日。~BE・LOVEの場合~
第5回:『ちはやふる』映画公開! 初の原画展も開催!「BE・LOVE」編集長が考える漫画の世界での“つながり”

▶次回の岩間編集長のコラムは、5月末頃更新予定です!