「ますむらひろしの銀河鉄道の夜―前編」 八王子夢美術館で開催中 (三起商行(ミキハウス))

文芸・カルチャー

公開日:2023/3/24

「ますむらひろしの銀河鉄道の夜―前編」
八王子夢美術館で3月26日(日)まで開催中です!

宮沢賢治の世界を、猫を主人公として描く漫画家ますむらひろしさん。
『銀河鉄道の夜』の魅力や深みを1ページ1ページに詰め込んできたと語っています。

ミュージアムショップでは、ミキハウスから刊行している
【ますむらひろし版 宮沢賢治童話集】やまなし/ひかりの素足と【ますむらひろし版 宮沢賢治童話集】オツベルと象/虔十公園林も販売しています。

見ごたえがあり、宮沢賢治の世界へ吸い込まれていく展覧会です。

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ますむらひろし版 宮沢賢治童話集「やまなし/ひかりの素足」

作画:ますむらひろし原作:宮沢 賢治

みどころ

宮沢賢治の童話世界では、ヤマナシは川を「ぽかぽか」流れてゆき、月光の虹が「もかもか」とあつまり、そしてクラムボンは「かぷかぷ」と笑います。
 宮沢賢治童話を、アダゴオルシリーズで知られるますむらひろしさんがマンガで描くシリーズの最新作。
 
 子どものような感性で紡がれるオノマトペが、なんとも耳におもしろい「やまなし」。
 カニの子らが見る川底の世界を描いた本作は、宮沢賢治の鋭い観察眼によって、リアリティと幻想的な美しさとが奇跡的に両立している作品です。
 それをますむらひろしさんがマンガとして描くと、思わず目を細めてしまうほどに説得力のある光の色彩がモノトーンなはずのページでまぶしくきらめき、ほんとうにカニの子どもから話を聞いて描いたかのようなあざやかさで物語が展開してゆきます。

 一方、幼い兄弟が生と死の狭間でかいま見た地獄と極楽の風景を描く「ひかりの素足」では、その色彩はただうつくしいだけではありません。
 きりりと清らかな雪山と、冬の太陽。内蔵にひやりとしみこんでくる暗い不気味さをもった地獄の世界。温かみまで皮膚に感じるような、きらびやかな極楽の都。
 その三つの景色が子どもの目を通してていねいに描かれるなかで、地獄の描写はもちろんのこと、子どもにはどうにもしようのないおおきさで迫ってくる冬山の淡々とした恐ろしさには息も詰まります。

 ちなみに「ひかりの素足」では、キャラクターたちはかなりきつい方言で話しています。ただ読み進めようとするとなかなか意味のとれないそれも、なぜだか声に出してみると、不思議とこれがすうと意味のしみこんできて、口にもなじむ心地のよい音なので実に楽しいのです。ぜひ、試してみてください。

ますむらひろし版 宮沢賢治童話集「オツベルと象・虔十公園林(けんじゅうこうえんりん)」

作画:ますむらひろし原作:宮沢 賢治

みどころ

人のかわりにネコが生きるファンタジックな世界観で、宮沢賢治の童話世界にあたらしい景色を開拓したマンガ家、ますむらひろし。
 そんなますむらひろしさんの描く宮沢賢治童話の最新作です。

 強欲な商人オツベルは、迷い込んできた純真な白い象をだまして働かせる。日に日に弱っていく象は、森の仲間たちに助けを求めて─「オツベルと象」

 赤ん坊のように純真な子ども虔十が、ある日とつぜん七百もの杉苗を買ってくれとねだる。杉の育つはずのない土地に、虔十が七百の杉苗を植えると─「虔十公園林」

 雨の風景に浮かぶ草木によろこび、空をゆく鳥を見つけては笑う虔十は、そんな様子をほかの子らにバカにされて、笑うのをガマンするようになります。それでもうれしくてしかたのないときには、むりにおおきく口をあけて笑顔をころし、はあはあと息だけついてごまかすのです。
 ぶなの葉が風にゆれ、ちらちらと光って見えるのがうれしくて、たまらずに笑ってしまう虔十の素直な表情たるや、こちらにも笑顔がうつってしまいそうな愛おしさです。
 
 変わってその恐ろしさにぞくりとさせられるのが、奴隷のようにあつかわれることに疲れ、オツベルをじっとにらみつける白い象の怒りのこもったまなざし。
「赤い竜の目」と宮沢賢治の表現したその憤怒のまなざしが、ますむらひろしさんの描く白い象では、まさしく竜のものとも鬼のものともとれる、静かながらもすさまじい形相で描かれています。

 ますむらひろしさんの生き生きとしたキャラクターが、宮沢賢治のていねいな言葉と溶け合い、ありえるはずのない幻想的な世界が、あるえるかもしれないと思わせるあざやかさでページいっぱいに広がります。
 あたかも、ネコが人として生きるこの世界のほうがまずはじめにあって、それをあとから宮沢賢治が童話として描き出したのではないかと、そんなアベコベが信じられるほど。
 ぜひキャラクターたちの「顔」を、味わうように読んでみてください。心のうちが雄弁に語られる、その表情の豊かさにおどろかされます。

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