じぶんのすきなところへ。『ちいさな木』【NEXTプラチナブック】

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/29

絵本ナビがおすすめする「NEXTプラチナブック」(2023年11月選定)から、ご紹介する一冊はこちら!

「これから、じぶんのすきなところへ行くんだ。きみも、いっしょに行こうよ」。犬のゴッチに言われたちいさな木は、初めて根っこを引き抜いてみて……。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介する絵本は、『魔女の宅急便』の豪華コンビによる、背中を押してくれる一冊!どんな内容なのでしょう?

NEXTプラチナブックとは…?

絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。

そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。

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じぶんのすきなところへ。『ちいさな木』

ちいさな木

作:角野栄子 絵:佐竹美保

みどころ

もう何年もそこに生えている一本のちいさな木。ある時一ぴきの犬が走ってきて、こんなことを言います。

「ぼく、ゴッチ。つなを くいちぎってね、家出したんだよ。
これから じぶんの すきなところに いくんだ」

自分の好きなところ? ちいさな木は自分も行ってみたくなります。でも動けないから無理だとあきらめかけていると、ゴッチはやってみなくちゃわからないと言います。ためしに根っこをよっこらしょって引き抜いてみると……歩けた! ちいさな木はキッコと名乗り、ゴッチと一緒に「じぶんがすきなところ」を求めて、冒険の旅に出発することに。

ゴッチは、スタンスタン。キッコはイッポイッポ。ゆるやかな丘を登ったり下りたりして歩いていくと、途中で岩のイワオ、沼のイッテキにも出会い、「じぶんのすきなところ」に魅入られた異色の4人が一歩ずつ進んでいきます。スタンスタン、イッポイッポ、ゴロンチョゴロンチョ、ポチョンチョポチョンチョ。その先に見えてきた景色は……?

ちいさな木がはえていた場所には、よく自動車が通り、そのたびによろけてしまいます。でも、遠く町から聞こえる「うお~~ん」という声を聞くと、ほっとするのでした。

犬のゴッチが言った言葉を、ちいさな木は思わず聞き返します。
「じ、ぶ、ん、の、す、き、な、と、こ、ろ?」

スタンスタン、イッポイッポ、ゴロンチョゴロンチョ……

ああ、なんて素敵な冒険なのでしょう。無理だと思っていたけれど、やってみたら出来るかもしれない。自分の居場所を自分の足で見つけられるのかもしれない。もちろん、その場所が4人とも一緒だとは限らないのですけどね。

文章を手掛けているのは、童話や絵本など、数々の名作を世に送り出してきた角野栄子さん。小さな木の不思議な物語を、軽快に、そして優しくシンプルな言葉で綴ります。絵を描かれているのは、「魔女の宅急便」シリーズ(福音館書店)で角野さんとタッグを組まれている佐竹美保さん。モノクロが基調となった絵は、象徴的でもあり、ユーモラスでもあり。後半に広がっていく緑色の風景は何年経っても心に残るであろう美しさ。

年齢に関係なく、読み終われば、なんだか背中を押してもらったような気分。今ならなんでもできる気がしてきます。「やってみないとわからないでしょ!」 角野さんと佐竹さん、おふたりの声が聞こえてくるようですね。

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編集長のおすすめポイントは……

誰だって、どこにでも行ける!

小さな木が根っこを引き抜いて歩き出し、岩がゴロンゴロンと自分で転がり、沼がみんなの力を借りながら立ち上がる。「そんなことって……!?」 彼らが自分自身に驚くと同時に、読者も同じくらい驚いてしまいます。そんなの無理だって思い込んでいたのは、私たちの方なのかもしれませんね。誰だって、どこにでも行ける! 4人が歩く姿は、見ているだけでワクワクしてきます。最後にゴッチは「じぶんのすきなところ」を見つけたかしら。続きのお話も想像するだけで楽しいですよね。

磯崎園子(いそざきそのこ)

絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長。著書に『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』(ほるぷ出版)、『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)、監修に『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』『父母&保育園の先生おすすめのシリーズ絵本200冊』(玄光社)がある。

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