「BOOK OF THE YEAR 2022」ランキング1位 担当編集者インタビュー/エッセイ・ノンフィクション・その他部門 『1と0と加藤シゲアキ』担当編集・R.N

小説・エッセイ

公開日:2022/12/16

『ダ・ヴィンチ』2023年1月号の特集は、本年の「本のランキング」を投票で決める「BOOK OF THE YEAR 2022」。ダ・ヴィンチWEBではこの特集に連動し、ランキング1位に選ばれた作品を担当する編集者へのインタビューを実施。
 エッセイ・ノンフィクション・その他ランキングで1位を受賞した『1と0と加藤シゲアキ』(加藤シゲアキ)の担当編集、R.Nさんにお話を伺った。

小説部門編はこちら
コミック部門編はこちら
文庫部門編はこちら

(取材・文=柴田 成)

advertisement

小説はもっと自由でいい

「インタビューも戯曲も、どれも落とせないし、どれも入れたい。これを収めていく作業が一番大変でした」

 笑顔でそう語るのは、BOOK OF THE YEAR 2022で1位を受賞した作品『1と0と加藤シゲアキ』(加藤シゲアキ)担当編集のNさんだ。当初288ページのムック本となる予定だった本作は、収録したい内容が多すぎて、最終的に416ページもの大作の単行本になった。

 『1と0と加藤シゲアキ』は、加藤シゲアキさんの作家人生10周年を記念した濃密な企画本だ。加藤さん本人が責任編集を務め、その収録内容は、小説はもちろん、戯曲や脚本、ロングインタビューやクリエイター対談など、じつに多岐にわたる。競作企画には、恩田陸、最果タヒ、珠川こおり、中村文則、羽田圭介、深緑野分、堀本裕樹、又吉直樹ら豪華作家陣が「渋谷と○○」というテーマで小説・詩・俳句を寄稿した。既存の枠にとらわれない唯一無二の本になっている。

「ジャンル分けできない本だと思うんですね。小説でもあるし、対談集でもあるし、ノンフィクションでもある」。Nさんはそう語る。

 書籍の帯のキャッチコピー「小説はもっと自由でいい」をまさに体現する作品。これは、本作を作る過程で加藤さん本人が実際に言った言葉だという。

「すごく良いフレーズだと思って、帯に使わせてもらいました」

一切妥協しない作品作り

 10周年記念本という企画アイデアは、編集部から加藤さんへの提案だったという。

「加藤シゲアキという作家を10年かけて見守ってきた私たちだからこそ作れるものを何か出しませんか、というご提案をしました」(補足:加藤さんのデビュー作『ピンクとグレー』は2012年にKADOKAWAより刊行)

 その後、打ち合わせを重ねて内容を吟味した。収録する内容はすべて加藤さんに確認した。

「10年を振り返りつつ、加藤さんにしかできないチャレンジをしてもらおうというコンセプトだったので、インタビューの再録や戯曲『染、色』の初収録を提案したり、これを機に話してみたい人はいませんかとか、共通のテーマで小説を頼んでみませんかとか、全部打ち合わせをしながら進めてきました」

 より良い企画を提案するために、Nさんも多くの関連情報にあたった。
「作品を深く読み、過去のインタビューもものすごくたくさん読みました」と振り返る。その過程で、加藤さんが所属するアイドルグループNEWSのライブDVDも初めて見た。
「加藤さんにとっても、加藤さんのファンの方にとっても、可能な限り豪華で満足のいく作品になるように考え続けました」

 Nさんが考える加藤さんの一番の魅力は、「表現に対してすごくこだわりがあるところ」だという。新作短編小説「渋谷と一と〇と」では、マジックリアリズム的表現に挑戦し、ギリギリまで原稿に修正を加える加藤さんの姿を間近で見ていた。小説「渋谷と一と〇と」は、リネンサプライ会社で働く男の話で、加藤さんが原作・脚本・監督・主演の4役を務めた映像作品『渋谷と1と0と』では、小説には登場しないキャラクターも加わり、加藤さんが一人二役を演じているなど、違いを楽しめる。

過去を振り返り、現在を見つめ、未来へ踏み出す

『1と0と加藤シゲアキ』の冒頭で、加藤さんは本書について「過去を振り返り、現在を見つめ、未来へ踏み出すための書籍」と宣言する。作家生活10周年の記念本であると同時に、これからの10年、20年に向けての本だ。

 映像作品や、複数の作家陣が参加したアンソロジーなど、新規読者や若い世代にも引っかかるようなフックを多く盛り込んだ。七色に光る紙を使った表紙など、装丁にもこだわった。加藤さんのファンやこれまでの読者はもちろん、加藤さんの作品を読んだことのない方にも「この本をきっかけに加藤さんのことを知ってもらいたい」とNさんは語る。加藤シゲアキの未来の片鱗にぜひ触れてもらいたい。